diario
明るくなくたって良いんだ 9月30日
今までになく暗い小箱が完成しました・・・。
もとい、黒い小箱です。
黒地に白いラインの線彫りです。
古色をつけてアンティーク調に加工しましたら
黒が深くなってラインの白も暗くなりました。
模様のデザインは以前から使っているものでも
加工方法を変えてみたら楽しくなりました。
先日ご覧いただいたモスグリーンで細長い
「旅の思い出風小箱」と同じ加工方法です。
内側の布は明るくしようかと思いましたが、いっそのこと中も暗く。
いつものように家族に見せましたら
「わはー!これまた暗ぁいぃぃ~!」と爆笑でした。
何が可笑しいのかしら、心外だ。
はいはい、暗いですよ。
でも明るきゃ良いってもんでも無かろうよ。
何事も明暗ありきじゃ。
気を取り直して違う写真を撮りましょう・・・。
明るい場所で撮っても黒い箱は黒いのでした。
でもなかなか趣があって落ち着いていて
本棚にでもちょこっと置きたい雰囲気に仕上がったと思います。
うむ、可愛いじゃないの~。(自画自賛失礼!)
いかがでしょうか・・・。
一匹狼が三匹 9月26日
東京はある日突然に、秋になりました。
去年の秋の始まりもこんなでしたっけ?
出不精のわたしですが、久しぶりに会った友人二人と
お互いに最近の経験と考えていることを話し合って
そして励ましあって、ずいぶんと元気になりました。
分野は違えどひとりで制作している
またはフリーで活動している友人ですので
一匹狼気質といいましょうか、改めてそんな共通点を感じたのでした。
▲夏に食べたプラム、美しい色
わたしたちに「気づき」を与えようとしている人がいて
でもその人たちは言葉で何かを与えてくるのではない。
きっかけだけを提示して、こちらの様子をうかがっている。
どんな気持ちでこの作品を作ったのか?
あなたは自作のものに対して、どの程度の考えを持って発表しているのか?
などなど・・・。
それをわたしたちが受け取るか受け取らないか
(受け取る気にならないか)は、
そして考えて答えるにはタイミングが大切だよね、と言うこと。
なんだかお互いに共感して
「うんうん、そうだよねぇ・・・」を繰り返した午後でした。
そんな時間が必要だったのでしょう。
もし入れるものが決まっているのなら 9月23日
過日、ご注文頂いていた小箱が完成し
お引渡ししました。
お客様でもある知人の方とは
定期的にお目にかかる機会があるので
お互いの様子や好みも分かっていましたし、
ご注文の際にとても分かりやすく
ご希望を伝えてくださっていました。
ですので制作も大変に順調に進みました。
そして、この小箱はお客様にとって大切な、
とても思いの籠ったものを入れるために
ご注文下さいました。
わたしは光栄な気持ち、そして
厳かな気持ちでお引き受けいたしました。
デザインやお好みの打ち合わせも大切ですが
小箱の目的をお聞かせいただく事は
制作をする気持ちの上でとても大切なことです。
完成してお引渡し後を想像しつつ作ることが出来ました。
さてさて、その小箱ですが。
豆小箱の面取りをして
パスティリア(石膏盛上げ)で蓋にはイニシャルを、
側面にはポチポチを入れて欲しい、
仕上げは金箔に古色をつけて・・・とのご希望。
▲ K・W イニシャル。箔を磨いて装飾を終えたところ。ピカピカです。
▲パスティリアによる側面ポチポチ。
指が映るほどピカピカの金箔ですが
ここから磨り出しをしてワックスとパウダーで
アンティーク調に加工しまして、完成でございます。
金箔に深みが出ました。
パスティリアで凸になった部分は
擦り出して下地の赤ボーロが見えています。
打ち合わせ時に「中は何色にしますか?」と尋ねましたら
「グリーンにしてください、一番好きな色ですので!」
と即答してくださいました。
さてグリーンと言っても色んな緑色がありますね。
一瞬「ふぅむ」と思いつつも、そういえば彼女
腕時計のベルトがモスグリーンだったな、
冬はコートの色もモスグリーンだったなぁ・・・
と思い出し、その色を。
お引渡しの時、「ああ、この色~これこれ!」と
喜んでくださって、わたしも大変うれしく思ったのでした。
またひとつ、わたしの小さな娘(小箱)が
生まれて嫁ぎました。なんたる幸せ。
暗いって怖い 9月19日
またもや、忘れたころに登場のフィレンツェ滞在記です。
フィレンツェ旧市街、ドゥオーモから北東に
サンティッシマ・アンヌンツィアータ教会があります。
教会前広場があって、横には私が大好きな美術館
「捨て子養育院美術館」もあります。
▲前方の白いアーチがサンティッシマ・アンヌンツィアータ教会
わたしが大学卒業後すぐに留学したころ
この教会前広場はドラッグ売買がされたり薄暗いイメージで、
夜にはあまり近寄らない場所でした。
最近はすっかり印象も変わって整備されて
居心地の良い広場になっています。
さて、そんな場所にありますので留学時代は近寄らない教会でしたが
わたしの彫刻師匠グスターヴォの工房からほど近く
最近は工房からの帰りに寄り道していました。
グスターヴォ曰く「フィレンツェで一番美しい教会だと思う」とのこと。
入口すぐには明るく美しい回廊のポーチがあって
いざ教会内に入りますと、こちらは別世界なのでした。
▲窓の外は青空だけど、中は別世界
歴史は古く、1481年に完成したそうですが
内部の装飾はバロック様式。
濃いグレーの大理石のせいか、暗く厳かな雰囲気です。
▲天井装飾もまるでローマの教会のようです。
入ってすぐ左には銀器が並ぶ小礼拝堂があって
▲ミケロッツォによる小礼拝堂
天使の天井画も美しい。
なのですが、どうにもこうにも怖いのです。
恐らく、暗いこととライティングの効果とは思うのですが
冬に日が暮れてから訪ねると、寒さと静けさとお香の香りと
何もかもが押し寄せてくるような。
信仰の重みと歴史の重みと、外界と隔てられた空気の重みが
圧し掛かってくるような。
大好きなサン・ミニアート・アル・モンテ教会と
サン・レミージョ教会、川向うのサンタ・カルミネ教会、
そしてこのサンティッシマ・アンヌンツィアータ教会が
わたしにとって4大「怖い教会」です。
いえ、怖いなんて失礼極まりますね。
前述の通り暗いのが一番の理由です、きっと。
(でもそれだけではない気がしています・・・。)
怖い怖いと言いつつ、必ず何度も訪れてしまう教会。
まるで落語のようです。
旅の記憶と小箱の物語 9月16日
これは、モロッコ・タンジェのスークと
イスタンブールのバザールを歩いた時の記憶を
思い出しながら作った物語です。
。。。。。。。。。。。。。
香辛料とコーヒーと人々の体臭と
ありとあらゆる匂いが積み重なったバザールで、
私は出口を見失っていた。
道を尋ねようと思ったその店は薄暗い路地にあった。
入口横には安そうな土産物が並んでいる。
私はただ道を尋ねるのも悪いと思い
商品を選ぶふりをして店に入った。
狭い間口とは裏腹に案外奥は深く
いくつかの小部屋が続いている。
4つ目の部屋に差し掛かった時
ふと目に留まった小箱があり、手に取った。
五十がらみの退屈そうな店主がいつの間にか
音もなく私の後ろに立っていて驚いた。
「これは俺の爺さんが集めた骨董の残りだ。
爺さんは骨董商をしていたけれど俺が生まれる前に死んだ。
だから、今残っているのはこの棚にあるだけだ。」という。
聞けば彼の父親は骨董に興味が無く
祖父の死後ほどなく土産物店にした。
だが奇特な外国人観光客がたまに買っていくから
そのまま並べているそうだ。
「この箱がいつのものか?さぁてね
爺さんがどこで買い付けていたのか知らないから、もう分からない。」
「何に使われていたか・・・?それを知ってどうするんだ?
箱は箱さ。持ち主が好きなものを入れるためにあるのさ。」
道を聞くために入った店で、古びた小箱をひとつ買って出た。
新聞紙で包まれたその小箱を握って
ぼんやりと使い道を考えながらしばらく歩いたが、
ふとバザールの出口を聞くのを忘れたことに気付いた。
その店があった場所はすでにいくつかの路地の向こうで、
もう戻る道は分からなかった。
。。。。。。。。。。。。。
なんちゃって・・・そんな旅の思い出に
誰かが持っていそうな小箱、のイメージ。
彼が買った小箱が本当に骨董品だったのか
似せて作られた物だったのか
わたしにも分かりません。
さて、わたしが作った新しい小箱ですが
模様は西洋の本にあったものなのですが
完成してみたらいつの間にか
いずことも知れぬ雰囲気になっていました。
124×58×20mm
あっちとこっちと、感覚は違う 9月12日
小箱に装飾をしながら小さな額縁も作る。
どちらも木地にボローニャ石膏を塗って磨いて
ボーロを塗って箔を貼って磨いて・・・と、
材料も手順も同じだけれど、なにやら向き合う気持ちは違うのです。
箱は5面(4側面と上面)に対して
額縁は1面もしくは彫刻で3Dだから?
いや違うな、額縁も5面ですな・・・
やはり大きな違いは塊りか枠か、ですかね・・・。
ともあれ、箱に疲れたら額縁に行き
額縁に行き詰まったら箱に行き・・・そんなことをしています。
この額縁も箱に石膏を塗るタイミングにあわせて木地を作って
まとめて石膏を塗っておいたもの。
いつも頭の片隅にあって、どんなデザインにしようかな・・・
と呑気に考えていました。
そしてこれまた箱にパスティリア(石膏盛上げ)をするタイミングで
この額縁にもパスティリアでポチポチを並べました。
何の変哲もないデザインなのですけれど
角をカットしたことで少し柔らかさが出たかな、と思います。
ポチポチのサイズや間隔でも実は結構な変化が出るのです。
ポチとポチの間が詰まるほどクラシカルな印象になったり
ポチのサイズが大きくなると迫力は増すけれどバランスは難しくなる、とか。
ああでもないこうでもない・・・と
下描きで試しながら考える時間はとても楽しくて
完成した額縁を眺めてひとりでニヤニヤしています。
今年も12月に箱義桐箱店 谷中店で
小箱の個展をさせていただく予定です。
その際にこの額縁を含めたハガキサイズの額縁を
数点ご覧いただけたらと思っております。
写真と額縁と 9月09日
先週9月6日から、中野にあります写真専門の画廊
「ギャラリー冬青」にて開催の展覧会に
KANESEI の額縁を使って頂いております。
匿名の写真家 H.J 氏によるフィルム写真作品です。
▲70年代に撮影された作品。被写体は当時の恋人、現在の奥様。
額縁は全部で11点使って頂いておりますが
(その内の2点は同時開催の名古屋での展示に使用)
どの額縁もしばらく前に作ったものです。
上の額縁は本銀箔の艶消し仕上げ。
写真の空の青、車の輝きとコンクリートの乾いた感じと
とても良く合っています。
今回の額装はすべてコーディネートされた
渡部さとるさんとギャラリーの方によるものです。
わたしのアトリエにお越しくださり額縁を選び、
写真とのマッチングをしてくださいました。
▲とてもクラシカルな額縁だけど、服のチェック模様や
木漏れ日の影に不思議と合っている。
こうして作品を納めた額縁の姿をギャラリーで見たとき
自分の手元にあった時の記憶が薄れて
知らない額縁を見たような気持ちになりました。
晴れがましいような寂しいような、不思議な気持ちです。
▲内側の側面にアワビ貝を貼った額縁は
輝く車体とつながるイメージ。
美しく詩的で力強さもあって、青春とノスタルジーと切なさと苦しさと
色々と混ざった感情が沸き上がる写真作品に、
わたしの額縁を使っていただく事が出来たのは幸せなことです。
▲この額縁は他社製。これもスッキリとして美しい額縁です。
わたしの青春の地であるフィレンツェの
サンタ・トリニタ橋の風景があったことも
わたしの気持ちを揺さぶった理由の一つでした。
H.J氏による写真展「melody」は、ギャラリー冬青にて9月26日まで。
もうひとつ名古屋で同時開催のH.J氏写真展「eyes」は
もしご興味をお持ちいただけましたら、ぜひお出かけください。
編み物シリーズ 9月05日
勝手に命名「編み物シリーズ」として作っている
竹編み風デザインの小箱です。
数年前にひとつ作って、あまりに気に入ったので
展示会初日に友人に押し売りしたのですが
その後ふたつ作ったけれどあまり人気はない様子・・・
でもでも!きっと好んで下さるかたもいらっしゃるに違いない、と
思い込んで(思い込みは制作にある程度必要!)
新たにふたつ作りました。
水箔(14カラットの金箔)で仕上げたもの
▲三本立ての四ツ目編み風。
▲パカッ 中は濃い青にしました。
それから太くふっくらとした四ツ目編み風。
こちらは22カラット金箔。
▲行李っぽい雰囲気。
▲パカリンコ・・・内側は濃いベージュとモスグリーンです。
編み物シリーズ、数年前に
六つ目編み風のデザインも作り、手元にあります。
3つ並べてみたら、あらカワイイ~と親バカを発揮しております。
いかがでしょうか。
今年11月には神楽坂、12月には京都でのグループ展
そして谷中の箱義桐箱店谷中店での個展を予定しております。
そのうちのどこかでご覧いただきたいと張り切っております。
箔の上にもできますよ、の種明かし 9月02日
先日Instagramに、金箔2種類の貼り分けを載せたところ
思いがけず沢山の方にご興味を持って頂けたようでしたので
こちらブログでもご覧いただけたらと思います。
ヨーロッパ古典技法の箔の技法に「ミッショーネ」と言って
箔用の接着剤で貼る方法があります。
一般的にはテンペラ絵の具などで彩色した面の上に
例えば衣装の模様や天使の後輪などを入れる技法です。
今回は箔の上に箔を貼ってみます。
まずベースにはいつもの水押し技法(ボローニャ石膏地にボーロを塗り
箔を水で貼ってからメノウ磨き)で貼り磨いてから
その上にミッショーネ液(箔用の糊)で模様を描きます。
そして糊が半乾きの頃にもう1種類の箔を乗せます。
▲今回は4号箔(22カラット金箔)を水押しし
その上に水箔(14カラット金箔)を乗せます。
奥にある白い液体瓶がミッショーネ液。水性です。
そして、しばらくしてから筆で優しく掃うと
糊を置いた部分に模様が残る、という流れです。
▲これが一番楽しい瞬間
わたしは石膏地に模様を線彫りしてからベースの箔を貼り磨きます。
そうすると次の作業のミッショーネ液塗りが楽ですし、
わずかな凹凸でも立体感が出ますので。
▲こんな感じになります。ミッショーネ部分は磨けないので艶消し。
言ってみれば、いつものミッショーネ技法と同じなのですが
箔の上にも出来るよ、という事なのでした。
知り合いの古典技法作家の方が「水押しで貼り分けているのかと思った!
どうやっているのかと思った~」とおっしゃっていましたので
種明かし。でした。