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似て非なるふたつ 2月25日

 

相変わらず小箱のおはなし。

 

同じサイズ、同じデザインでも

ちがう装飾技法で作ってみる試みです。

どちらもボローニャ石膏下地ですが

上の完成している小箱には

全面金箔を貼ってから卵黄テンペラで

彩色後に、模様を細かく削り出す

「グラッフィート」技法で、

下の白い現在制作中の小箱は

下地とおなじボローニャ石膏を

垂らし描きして盛り上げを作る

「パスティリア」技法で。

 

完成したら、きっとまったく

印象の違う二つの小箱になりそうです。

たのしみです。

 

アボリジニ風 2月22日

 

オーストラリアにあるオルガ山、ご存じですか?

この山の写真を額装するご依頼がありました。

真っ赤な夕焼け空に黒々とした山がそびえる

力強い作品です。

ご依頼くださった方のイメージやお好み、

お家のインテリア等をふまえてご相談した結果

アボリジニアンアート風にしましょう

と言うことになりました。

 

わたしは実は・・・今回までオルガ山の存在も

いわゆる「アボリジニ・アート」も知らず・・・

いやはや、自分の興味の狭さを恥じるばかりです。

 

気を取り直し、いろいろと検討しまして

ドットで円を散らばせることにしました。

(どこまでもアボリジニ「」でございます。

ご容赦ください。)

 

▲ランダムに円を下描き。色は7色に決めて、

そこにお箸を利用してドットを入れていく。

 

▲色の順番など考えすぎると固くなる。

自分の感覚を信じるのみ・・・。

 

今までのわたしとは別世界の

カラフルで楽しそうな額縁になってきました。

作っている時、外は寒い一日でしたが

気持ちは明るくてワクワクして

なんだか新しい扉をこっそり開いた気分です。

 

 

Firenze 2020-14 2月18日

 

彫刻修行先のグスターヴォさんの

工房からの帰り道は、行きと違って

サン・マルコ教会に寄るのが日課でした。

運が良いときにはパイプオルガンの

練習が聴けたりするのです。

 

そんな日々で見たのが下のお知らせでした。

 

2月18日は我が師フラ・アンジェリコの命日で

夜6時半から記念ミサがあるとのこと。

カトリック信者ではないわたしですが

参列することにいたしました。

 

6時過ぎに行きますと準備が進められていました。

修道士の方が足早に物を運んだり、

後ろではパイプオルガンと合唱の練習も。

 

 

ミサがはじまる頃にはほぼ満席になりましたが

東洋人はどうやらわたしひとりだった様子。

 

厳粛で美しい教会音楽とともに、

アンジェリコの生涯と功績

サンマルコ美術館がいかに重要であるか

などなど、アンジェリコファンにとっては

有り難く嬉しいお話がされたのでした。

 

わたしは幼稚園に通う前から小学校卒業まで

教会の日曜学校へ毎週通いました。

(プロテスタントの教会でした。)

深い信仰を持つまでには至りませんでしたが

わたしにとってキリスト教はとても近しい存在です。

だけどまわりの信者の方々からしてみたら

ただの興味本位の観光客が紛れていると

思われただろうな、とお邪魔してしまったようで

申し訳ない気持ちにもなりました。

教会という固い結束のあるコミュニティに

外国人のわたしが突然参加するのは

やはり難しい一面があったと思っています。

 

フラ・アンジェリコが亡くなったのは1455年

ローマ滞在中の60歳のときでした。

565年後の2020年2月18日の夜でした。

 
Fra Angelico
 
 
 

少しずつ増える 2月15日

 

ここしばらく励んでいる小箱制作は

順調に進んでおります。

 

いくつか以前に作ったものも含みますが

集合写真を撮ってみました。

 

左上の一番大きな青い箱が

片手の平に乗るサイズです。

最小のものはOKサインの輪に

(親指と人差し指で輪を作る)

すっぽり収まります。

 

こうして写真で客観的に眺めますと

偏りや改善点が見えてきました。

ふむふむ・・・でもまぁ、かわいいかも。

いや、まったくの自己満足であります。

 

まだまだ増える予定です。

 

 

再燃の予感 2月11日

 

先日、まとめて何通か手紙を書く機会があって

とても久しぶりに封蝋をしました。

 

あぶって溶かした蝋を封筒にたらして

印を押すというもの。

この封蝋をひとつ押すだけで、ただの手紙が

ぱっと古典的なヨーロッパの雰囲気になるのです。

▲久しぶりすぎて蝋の適量もコツもすっかり忘れている。

 

もう10年以上使っていなかった封蝋ですが

なんだかとても楽しくなって、

あたらしい蝋が欲しくてネットで探しはじめたら

蝋を溶かす炉のようなものやスプーンなど

いろんな道具がどんどん出てきて

物欲が増す一方なのでした。

「封蝋をするためだけの美しい道具」

必要ない。でも欲しい。でもいらない・・・。

ああでも、欲しいなぁ。

封蝋熱が再燃しそうな予感です。

 

 

額縁の作り方 31 銀を腐食させる 2月08日

 

8年前(もう8年!)にもすこしだけ

ご紹介しましたが、銀箔を腐食させて

趣きの変化を出す方法です。

タイトルは「額縁の作り方」ですけれど

今回のサンプルは小箱です。

ボローニャ石膏に赤ボーロ、パスティリア。

純銀箔の水押し。額縁と同じ手法でつくっています。

古典技法の銀箔の貼り方は金箔とほぼ

同様ではありますけれど、それはさておき

今回はメノウ磨きを終えた銀箔から作業開始。

▲金箔は水で貼りますが、銀箔は薄いニカワ水で

貼り付けてからメノウで磨きます。

銀箔は磨き終えても銀らしい白っぽい輝き。

 

銀を腐食させる(サビさせる)にはいろんな薬剤が

ありますが、わたしは硫黄と硫化カリウムが主の

溶液を使っています。

▲硫黄が入っているので黄色くて臭い・・・。

 

この溶液を筆でまんべんなく塗りまして、しばし放置。

▲塗った少し後の状態。

徐々に変化がはじまって部分的に艶消しになっています。

 

▲2時間後。良い感じにサビました。

寒い時期は暖房の近くに置いた方が早いみたい。

 

いわゆる「真っ黒」にしたければ、さらに溶液を

塗り重ねるか濃い溶液を準備しますが

今回はこんな感じで終わらせようと思います。

▲ラッカーで艶を出し保護しました。完成。

いぶし銀の渋い雰囲気、いかがでしょうか。

 

艶ピカの少年が、苦み走った紳士に

なりましたとさ・・・。

 

 

Firenza 2020-13 2月04日

 

ローマ日帰り旅行、充実しました。

ドーリア・パンフィーリ美術館に長居して

タクシーに飛び乗ってどうにかこうにか

発車5分前にローマ中央のテルミニ駅に到着。

うひゃー・・・焦りました。

▲ホームには銀と赤のフレッチャ・ロッサの車両。

「赤い矢」という名前、いかにも速そうです。

 

イタリアには主に2種類の高速列車があり、

上のフレッチャ・ロッサは旧国鉄系、

今回帰路にわたしが乗るのはイタロ(ITALO)です。

ホームに入ってきました。

NYV社のITALOはフェラーリと同じ色使いだとか。

▲こちらITALOの車両、かっこよいのです。

ヒョウ柄コートの奥様のバッグも赤。

 

さて、ゆっくりと発車しました。

さようならローマ、また来ますよ。

本当は今すぐにでも行きたいけれど。

 

▲これから明かりが灯り出す家々。

 

▲住宅街から徐々に郊外へ。

 

▲上りのほうが車が多い。皆が家路を急ぐ時間・・・

 

▲そうして平原に日が沈み、もうすぐ一日が終わる。

 

フィレンツェS.M.N駅には夜7時半に到着。

もう真っ暗になった街を足早に帰宅しました。

いやはや・・・大変に充実した濃い一日でした。

 

 

ザ・コレクター -中世彩飾写本蒐集物語り- 2月01日

 

2019年12月に訪れた上野西洋美術館での展覧会

「ゴシック写本の小宇宙 内藤コレクション展」

内藤裕史氏のコレクションが寄贈された

記念の展覧会でしたが、

そのコレクションの歴史~寄贈までが綴られた

「ザ・コレクター」を読みました。

著者は医師・大学教授であって

写本の収集は興味と趣味ではじめたそうですが

どんどんのめり込む様子、広がり深まる

興味と知識、人脈などがとても面白く

そしてなにより羨ましく思えたのでした。

 

コレクションを高める熱意、財力

時間があることも羨ましいですが、

これだけの質の写本を集めることができたのは

内藤氏の人柄が大切だったように思います。

古書店や骨董店がふたつと無い商品を

引き渡す(売る)のは、金銭のやり取り以外にも

「この人になら」という信頼以上の何か、

感情的な何かが必要な気がしますが

その全てを備えていた内藤氏だからこそ

成し遂げられたコレクションなのでしょう。

なんて幸せなことなのだろう。

公的機関の国立西洋美術館に納まったらもう

それら写本が市場に出ることは恐らくありません。

販売する側(内藤氏にとって友人でもあった

ロンドンやパリの店主たち)としては手詰まりを意味し、

でも作品を愛する身としては嬉しいことでもあり・・・。

複雑な心境を抱えつつも、素直に寄贈の喜びを

内藤氏に伝えていたことが印象に残りました。

コレクターと販売者の理想の形がありました。

 

「ザ・コレクター -中世彩飾写本蒐集物語り-」

内藤 裕史

株式会社新潮社

2017年3月30日発行