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3年越しの待ちぼうけに終止符 6月20日

 

吊金具が痛んでいて、ある日突然

落下して壊れてしまった額縁。

額縁の大切な仕事のひとつである

「作品を守る」を果たしたとはいえ

装飾は失われ、木枠も歪みました。

 

幸い原形をとどめている部分も多いので

型取りをして装飾を再現します。

今回は箔は使わず、アクリル絵具と

古色ワックス、「ゴールドフィンガー」の

アンティークゴールド色で補彩しました。

写真は上が作業中、下が修復後です。



危険で重いガラスはアクリルに交換予定。

吊金具と紐も錆びにくい丈夫なものを付けます。

これでまた絵を守り、引き立てて

健やかに過ごしてくれることでしょう。

 

 

実はこの額縁、2015年晩冬にお話しした

「点検してください2」に登場した額縁です。

伯母から預かったまま、甘えていたら

3年も過ぎていました!

薄情な姪ですね。すみません。

祖父から伯母へ伝わった大切な作品、

早々にお届けしようと思います。

 

 

修復に度胸は必要ですか? 6月13日

 

先日、知人との会話で

「修復には度胸が必要でしょう?」

と言われました。

 

そうですね、修復処置をすべき額縁は

自分が作ったものではなく、多くの場合は

自分の持ち物でもない古いもの。

「代わりの物」は存在しません。

それに刃物を入れたり液体を塗ったり

様々手を入れなくてはいけない。

 

「さぁ始めるぞ」と言うとき、最初の一手には、

あるいはちいさな度胸が要るかもしれません。

でも、着手する前には念入りに調査し、

計画を立て、シミュレーションもして、

脳内リハーサルもしてしばらく考えて・・・

「うむ、よ~し!」となって始めます。

必要な処置を身心で理解できていれば

「恐怖」はそれだけ減るはずですから

度胸ではなくて安心を持って始められる。

 

そうは言っても、修復対象の額縁は

ひとつとして同じものは無い訳で、

予想外のことがおこる可能性もあります。

それを受け止めるのも「度胸」

冷静に処置するのも「度胸」

 

でもそれは

「覚悟」と言い換えることができる

かもしれません。

 

 

 

どこまで直すかはお好み次第 5月30日

 

お預かりしていた小さな額縁の

修復が終わりました。

1800年代フランスの板絵が入っていて

額縁もおそらく同時代の物と思われます。

この額縁もまた、長い年月の間に

なんども修復の手が入った跡があります。

写真は上が修復後、下が修復前。

相変わらず写真が下手なのはご容赦ください。

 

 

 

修復後の写真をご覧になって、

「これで直ったと言えるの?

まだ割れている部分もあるし

留め切れ(角の接合部分の開き)も

汚れもそのままじゃないか」と

思われるかもしれません。

 

額縁に限らず、何かを修復する時

どこまで直すかというのは大きな問題です。

今回だって木地の歪みを戻し、留めをつなぎ、

欠損に石膏を詰めて全面に金箔を貼り直せば

まるっとピカピカに戻るわけです。

古くてあまい修復跡も直してしまえばいい。

 

でもお客様はこの雰囲気がお好きです。

欠けや留め切れ、金の擦れも気にならないとのことですし、

なにより絵の雰囲気によく合っているのです。

今回はご意向に沿って最低限の装飾復元、

木地緩み固定とカカリの改良のみを行いました。

 

絵が違和感なく額縁に納まって

安全に保存・展示できるのならそれで良い。

もし「やっぱり他の部分も気になる」と

思われたなら、その時にまた直せば良いのですから。

 

大切なのは「修復する目的と理由」

そして「完成イメージ」を理解して

お客様と共有すること、と考えています。

 

 

額縁自作自修理 12月27日

 

数年前に作った額縁の側面が欠けました。

自分で作った額縁を自分で修理。

こういう時は我ながら便利だなぁと思います。

 

ボローニャ石膏を詰めて磨きましたよ。

 

ちなみに絵画修復の場合、作者本人に修復を頼むことは

してはなりません、と習いました。

本人なら良いだろうとお思いでしょうけれど、

単に剥がれた絵具を塗り直せばよい訳ではないのです。

下地の調整、剥落止め、洗浄等の必要有無もありますし、

作者本人が昔の自作を気に入らなくて、

ついうっかり違う場所まで手直ししたりすると

(それもたいていの場合、良かれと思って直してしまう)

もうその作品は違うものになってしまうのですから。

 

さて。だいたい修理完了です。

また元気に活躍しておくれ。

 

 

復活した花飾り 9月18日

 

先月にご覧いただいていた水押し金箔の

額縁修復が完了し、先日お引渡ししました。

KANESEIに届いた時はあまりに脆くて

持ち上げる度にパラパラと

石膏が剥がれ落ちてしまう程だった額縁ちゃん。

花飾りの彫刻は、額縁木枠と接する部分の花弁が欠け落ち

木枠も痛んでいます。

遥々と遠く海の向こうから東京に来て素敵なお宅に納まったら

事故で落下して壊れてしまった・・・。

落下の衝撃と経年劣化による石膏の亀裂も深刻でした。

この額縁ちゃん、どんな思いでいたことやら。

さぞかし悲しかったに違いありません。

 

と、つい額縁に感情移入してしまいますが

それはさておき。

下の写真は修復前の様子です。

白く見えているのは表層が剥がれ落ちて石膏地が見えている状態。

花弁も割れて失われています。

 

そして修復後。

可能な限り、ひび割れの剥落止めをしてから

ボローニャ石膏で繕い、赤ボーロを塗って箔を置きました。

水押しの金箔の良いところは、古い箔の横に新しい箔を置いても

メノウ磨きで馴染んでしまうことです。

再現した花弁の形は、全体の雰囲気から

そして対にある左の花弁を参考にわたしの想像で作りました。

違和感なく馴染んでくれたでしょうか。

オリジナルもこんな感じであったなら良いのですが。

 

この額縁、他の部分も大きく壊れていて手間取りましたが

どうにか丈夫に美しく復活できたと思います。

 

経年変化した色や艶は、それ自体が美しさのひとつです。

この美しさを保ったまま修復することを心がけています。

わたしが修復する前にも、なんども修理修復の手が

入った形跡がありました。

それぞれの職人が試行錯誤して、どうにかこの額縁を

元気な姿にしてやりたい、との気持ちを感じます。

これからもまた、持ち主の方と末永く

幸せに暮らしてほしいと願ってやみません。

 

 

金箔の色を選ぶ 8月24日

 

引きつづき水押しの金箔が使われた額縁と

オーナメントの 修復の模様からお伝えします。

 

新しく補った花弁を再生し、石膏の整形も終わりました。

オリジナルと同じように、赤色ボーロを塗ります。

問題は箔の色。

金箔にもカラットがいろいろあって、色味が違います。

今回は3号かな、4号かな。

どの箔を使うかは、箔置き後の作業である

メノウ磨きや艶、色合わせも考慮して決めます。

 

すこしメノウ磨きをしてみて確認しましょう。

ふむ・・・

予定通り。大丈夫そうです。

ちなみに隣にある棒状のものは、自作の箔色見本です。

赤色ボーロ(メインに使われるボーロ)にカラットの違いで3種の金箔。

この写真では分かり辛いのですが、ほんのりと微妙に

色味が違うのですよ。

修復する額縁と箔色見本を並べて計画を立てます。

これが1本あると便利です。

 

 

他人のものに手を加える恐ろしさ 8月17日

 

全面に純金箔水押しの額縁修復を続けています。

そんなに古い額縁ではない、おそらくイタリア製。

木地とボローニャ石膏の間に空気の層が出来ていて

亀裂からパイのようにパリパリと割れて剥がれてしまうという

かなりの重症患者なのですが、ひたすら剥落止めをしつつ

石膏で充填して磨いて整形して、という作業をしています。

 

それにしても。

修復作業とは恐ろしいものです。

持ち主は他人(ご依頼主)で、大切なお金を払ってでも

額縁を健康で美しい状態に戻したいと願っていらっしゃる。

更にその額縁は他人が作ったもので

多くの場合は制作者はすでに亡き人かもしれない。

そんな額縁に刃物を入れる必要もある・・・

ご依頼主や制作者である「他人」(表現が悪いけれど)の

気持ちを背負って、二つとないものに手を加えるのは

大変緊張感を伴います。

考えたら、恐ろしくて手が震えそう。

 

緊張しすぎて萎縮すると必要な処置ができなくなるけれど、

制作者の気持ち、修復を依頼して下さった方の気持ち、

この緊張感、「人の心」を忘れないようにすることが

修復をするうえで忘れてはならないこと、と感じます。

まったくもって「私」が入る余地はありません。

 

夜にひとりでコツコツと修復作業をしていると、

今は亡き制作者が後ろに立って、じぃ~っと覗き込んでいる?

などとふと、思うことがあります。

わたしが作った額縁を、わたしの死後に修復してもらえるなら

どこからか、きっと覗きに来ずにはいられないでしょう。

 

このお話をしたのはお盆の記憶が新しいから

というわけではありませんよ・・・。

 

 

古い修復跡は 3月20日

 

修復のご依頼を頂く額縁は 凝ったデザインだったり、

歴史ある物だったり、と言うような額縁が多いのですが、

大抵の額縁にはKANESEIに修復で来る前にも

何度か修復された跡があります。

それだけ今まで大切にされた証です。

下の写真、何だか不自然な部分があります。 お分かりですか。

他の部分に残っているオリジナル(本来の姿)には

植物モチーフの凸状装飾があるのでした。

石膏型取りの装飾なので、ぶつけた拍子などに 欠けやすいのです。

額縁の破損ではとても多い症状です。

誰の手による修復(と言うのか)なのか、もはや分かりません。

予算か時間か技術か・・・が足りなかったのか。

こうした古い修理跡は、ご依頼主の方とご相談して検討しますが、

よほどの場合でない限り現状維持、

あるいは補彩する程度をお勧めしています。

可逆性の無い修理の場合、取り除くことで

額縁に負荷をかけてしまう場合が多いのです。

今回の額縁も、全体を眺めてみると

「あれ、言われてみれば…」と言う感じで 馴染んでいますので、

このまま残します。

これもまた、この額縁の歴史です。

 

 

破片は大切 3月13日

 

額縁の装飾部分が壊れてしまったとき

どうぞ破片を集めて保存してください。

爪の先のように小さなカケラでも

破片があればパズルのように復元修復できます。

 hahen2

複数個所なら、それぞれ小袋に分けてあると迷いません。

 hahen1

破片が無くなってしまったら、型取りをして再現をして・・・

と 作業量と時間がとても増えます。  

破片は大切です!    

 

 

本物の輝き 2月02日

 

ついこのあいだお正月だったと思ったらもう2月ですって!

早すぎてドキドキハラハラしています。

 

額縁修復で、いちばん華やかで楽しいけれど

いちばん神経が磨り減るのも補彩と艶合わせ、でしょうか。

というのも、あまりやり直しがきかない作業でもあるから。

以前にもお話しましたが、金箔を使った額縁の補彩に

必ずしも金箔を使うわけではありません。

金箔を使うことの方が稀なくらいです。

 

今回の額縁も、純金箔の水押しメノウ磨き仕上げでしたが

補彩には純金粉を使っています。

ゴールドフィンガーやアクリル等の金色の色材はありますが

純金の輝きが強い額縁には、やはり補彩にも純金が必要です。

これまた臨機応変に。

 

モノクロですが、下は修復前の状態。

装飾がごっそりと欠け落ちています。

クリーニング前なので金の輝きも曇っています。

bu (1)

クリーニング、整形後にボローニャ石膏をかけました。

bu (2)

オリジナルと同色のボーロを塗って、下色を入れてから

純金粉を使って色と艶を合わせます。

影や凹部分には顔料やワックスも使って古色を入れて仕上げ。

bu (3)

金粉は金箔とおなじようにメノウで磨けます。

(ボローニャ石膏等下地とボーロは必須です。)

どんなに似せても、本当の純金の輝きとツヤは

純金以外には出せない物なのだ・・・とつくづく思います。

 

古いガラスの趣 1月23日

 

修復でお預かりした額縁は、ガラス磨きも大切な工程です。

汚れていないつもりの内側も案外と曇っていますから、

ガラスを磨いただけでも小ざっぱりとします。

 

先日修復が終わった額縁には、額縁完成と同時に入れられた

おそらく1800年代のものと思われるガラスが入っていたのでした。

gara2

写真の下部に見える2つの点のような気泡もちらほら。

すこし青味がかっていて、表面に緩やかな波が見えました。

古いガラスは柔軟性も失われて割れやすいですし、

作品鑑賞には邪魔な青色と気泡ではあるのですが、

この揺らぎのあるガラスが作品に乗ったときの雰囲気は

なんと言うのでしょうか・・・柔らかで上品で

なににも換え難いものに感じられるのでした。

 

ガラスは重くて割れると危険、紫外線も通してしまうこと等から

古いガラスはアクリルに交換されることが多くなりましたが、

展示する環境を整え、理解していれば、

オリジナルのままの形で鑑賞するのも決して悪くない、と思うのです。

そういえばフィレンツェの額縁工房でも、わざわざ

古いガラスを探して入れる、なんてこともあったなぁ・・・

と思い出していました。

 

地味な戦いとその後の楽しみ 12月08日

 

額縁の修復・修理は、おおまかに

支持体である木地の調整・補強

表面装飾の整形・補彩

そして絵が入る部分も含めて額縁裏面の調整もあります。

 

装飾部分の箔置きや補彩が華やかな作業ならば

木地調整や裏面調整は地味な、まさに裏方作業ですし

埃とも戦わねばなりません。

 

19世紀の額縁裏面には、やはりびっちりと紙が貼られていました。

これを剥がします。

古い紙は酸化し粉になりかけている部分もあって

良いことは一つも無し。

表面に比べ裏面は躊躇なく不要物を取り除く必要があります。

(ラベルやシール、書き込みがある部分は状態に応じて

剥がして保存、部分的に残す等します。)

ura1

手で剥がせない部分はOLFAのデザインカッターが活躍。

絶妙にしなる刃で古い紙をそぎ取ることができます。

やはり日本の刃物は優秀でございます。

 

ura2

この程度とり除いたら、あとはペーパーで仕上げましょう。

 

額縁は裏面から、じつに様々なことが見えてきます。

木地の種類、構造、材料、制作年代や場所の予想ができること、

そして、その額縁を作った職人さんの息遣いも・・・。

これぞ修復の楽しみです。

 

 

 

さよなら天使 11月21日

 

夏から修復に取り掛かっていた祭壇型額縁です。

翼の折れた天使の入院生活もようやく終わりました。

完成までの様子は左下のカテゴリー「修復」からご覧ください。

下の写真の右が修復前、左が修復後です。

写真の知識・技術不足による色の違いはご容赦ください・・・。

angejo-tobe-1-horz

天使部分もさることながら、柱上部のまるまる無くなっている装飾、

屋根部分の端先がすっかり欠け落ちていますし、

小さな四角い装飾もいくつか無くなっていたり。

また写真には写っていない側面や下部にも欠損が沢山ありました。

なんとか復元できたように思います。

 

額縁の装飾修復は、部分ごとに注視すると

オリジナルと復元部分の違いばかりが目についてしまいがちですが

すこし離れてゆっくりと全体を見て、

違和感が無いようにすることが最終目的です。

出来たばかりのようにぴかぴかにもしません。

古い額縁を新しいように装っても、土台が古いのですから

まるでお年寄りが若作りをしたような違和感が生まれます。

(この喩えは私個人の印象です、お許しください)

でも装飾の下の木地部分、場合によっては絵の入る内側も

しっかりと整えて、様々な新材料を使って改造もして

額縁本来の目的のひとつ「作品を守る」ことができるように。

修復を終えた額縁は、大切にされ、おだやかに時代を経た

趣が再現できているように・・・と思いつつ作業しています。

 

天使ちゃん、お疲れ様でした。

どうぞ末永くお元気でお過ごしください!

 

 

入院中の天使 飛び立つのももうすぐ、なはず。 11月10日

 

「まだ終わってないの?!」とのお声が聞こえてくるようですが

KANESEIで入院療養中の天使は、キラキラだった新しい箔部分を

オリジナルに近い色艶にする、ただいま仕上げ作業です。

angelo-2-1

飛び立つ助走中・・・と言ったところまでたどり着きました。

 

上の写真から半日作業後。

変化、あったのかしら。うー・・・。

angelo-2-2

箔の色合わせは難しいです。

自然光、室内電灯、光の当たる角度で色も艶も変わりますから。

もちろん写真でも変わります。

実物を観て、更に写真に撮って観ると客観的になれるようです。

うーむ、ううー・・・うぐぐ。

まだまだですな。

唸りつつ進めます。

 

 

箔 今昔 10月31日

 

KANESEIに入院中の天使、ようやくここまで

たどりつきました。

箔を置いてメノウ磨きが済んだところ。

方翼だけキラキラになった天使ちゃんです。

もうすぐ飛べるはず。

haku-3

白っぽく光っているところは今回箔を置いた部分です。

箔のつくろいをしてまた磨き、それから

オリジナルの部分のような色艶にするための補彩をします。

 

わたしは普段、箔類は金沢のお店にお願いしています。

先日も純金箔と洋箔(銅と亜鉛の合金箔、純金箔の代用品)を

購入しましたが、やはり高騰しているのですね。

haku-1

上の写真、純金箔4号色(94.4%金)で100枚18000円くらいでしょうか。

(時価ですので今日すでに高くなっている可能性も有り。)

わたしが大学生の頃、はじめて金箔を買ったときには

贅沢にも4号箔よりもっと純度の高いほぼ24金の金箔を使っていて、

その金箔が100枚で1万円しないくらいだったと記憶しています。

当時はまだ額縁制作を続けるとは思っていませんでしたけれど

「あの頃、金箔を買い溜めしておけば良かったなぁ」

なんて思ったりしています。

 

 

入院中の天使 その後まだ 9月08日

 

先日ご覧頂いた、KANESEIに入院中の天使ちゃん

今日も療養中なのですけれど、

すこしずつ作業を進めています。

angelo (1)

上の写真で白っぽく見えている部分はすべて復元最中。

失われた部分の多い額縁ですが

修復が完成した時の喜びもきっとひとしおだと思っています。

 

実はまだまだ整形するべき欠損部分はあるのです。

それらを作り終えたら石膏を薄くかけて

ようやく次の作業、補彩へ進む予定です。

 

 

入院中の天使 8月15日

 

翼の折れた天使。

歌のイメージとはちょっと違う天使ですが

心なしか悲しそうな表情です。

ただいま額縁の病院、KANESEIにて新しい翼を再生しています。

IMG_4202

まだまだ作業はつづきます。

はやく元気にして差し上げなければ。

 

古いニカワの香り 12月28日

 

先日、イギリスの額縁修理をしました。

5mm厚のペーパーボードに油彩で描かれた作品が納められています。

niou (1)

裏板は無く、作品を釘で留めて模造紙を貼り込んであります。

この「裏板無し」スタイルはヨーロッパで良く見られ、

珍しくありません。

裏板でガードするのが普通の日本では、ちょっと心配。

なにせ、作品の裏側はほぼむき出しですから。

酸化して破れた紙を取り除き、新しく裏板を取付けることになりました。

 

この紙、額縁木枠にはもちろん、作品の裏にも

ベッタリとニカワで貼りつけられていたのでした。

豪快というか適当(失礼!)というか…トホホ。

パリパリになった紙はもう粉になりながら簡単にはがれる状態。

ですが、作品の裏に付いたニカワは取り除けません。

作品裏に関しては額縁修復の範疇外ですので仕方ありません。

今後もし問題が発生するようなら、絵画修復師のもとで

処置をして頂くことにしましょう。

niou (2)

さて、木地に残ったカリカリになったニカワは

しっかりと紙やすりで丁寧に取り除きます。

 

ところでこの古いニカワは、不思議な匂いがするのです。

甘い砂糖のような、キャラメルのような。

新しいニカワは動物的な臭さがありますから、その変化が謎なのです。

この不思議な匂いを嗅いだとたんに

フィレンツェ留学時代の木工修復教室の匂いを思い出しました。

懐かしいキャラメルの匂い。

 

ノスタルジックな気分になりながら磨いた木地は

補彩、補整してバンパーを入れてスッキリ蘇らせましょう。

niou (3)

作品を戻し入れ、新しい裏板で閉じたら完成です。

 

新聞紙の可否 8月31日

 

洗浄と補彩でお預かりした、昭和に作られた額縁。

ご依頼主は最近手に入れられて、まずはメンテナンスとして

KANESEIにて健康診断です。

作品は大きめの色紙に描かれた日本がが収まっています。

裏板はトンボ金具で留まっていますので

レディメイドの額縁かもしれません。

 

さて・・・

まずはホコリを刷毛ではらって拭いて、

紐や金具も錆びたり傷んでいますので全部取り替え。

すべて外して裏板を開けましょう。

じゃーん!

中から現れたのは、新聞紙でした。

額装したお店で入れた・・・とは思えない(思いたくない)ので

おそらく前の持ち主の方が入れたのでしょうか。

sinbun

さらに内部を見たところ、マットに三角コーナーをテープ留して

作品を保持していましたが、このテープが酸化して剥がれ気味です。

きっと額縁の中で、作品が浮いたり歪んだりしはじめたので

裏板で圧迫して応急処置しよう、と思われたのかもしれません。

 

「額縁の厚さ調整に新聞紙を入れることは可か否か?」

新聞のインクには防虫効果があるとか

余計な湿気を吸い取るから良い、なんてことも聞きますが

額縁にはお勧めしません。

湿気を吸った新聞紙を交換しないなら本末転倒。

さらにはカビやホコリの温床、酸化した新聞紙には

虫ももちろん住み着くでしょう。

想像するだに恐ろしいぞっとする場面が広がります・・・。

 

最近は保存に優れた中性のボードなどがありますので、

お近くの額縁店や画材店にご相談いただきたいと思います。

KANESEIへのご依頼もお待ちしております。

 

 

Don’t think,Feel! 5月04日

 

額縁の表面や装飾部分を修復をするとき

すべての傷を消してしまうことはありません。

消すべき傷があると同時に

消してはいけない傷もあります。

 

壮年の人を青年のように取り繕っても若作りで

どこかアンバランスになるのと同じかもしれません。

美しく年月を経た証の傷は やはり美しいのです。

 

消すべき傷と残すべき傷の見きわめは

それぞれの額縁よく観ていると 額縁が教えてくれます。

Don’t think,Feel!

 

うーむ やはり・・・think とfeel  同じくらい大切です。

restauro2015

 

 

点検してください 2 2月12日

 

いま修復でお預かりしている額縁は 壁から落下して

装飾部分が欠け木地もひしゃげて ひし形に変形してしまっています。

幸いにもガラスは割れず 納められていた油絵は守られました。

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落下の衝撃から作品が無傷だったのは額縁のお蔭ですが

元はと言えば 額縁が落下しなければ起きなかった事故。

かなりの大けがを負ってしまったこの額縁は治療も大がかりです。

ごっそりと無くなってしまった装飾は 型取りで復元予定です。

y2

 

さて なぜこの額縁が落下してしまったのか?

紐が切れたのではなく 金具が外れてしまったのですが

その原因は額裏を返せば一目瞭然なのでした。

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全面にびっしりと貼り込まれた青紙は すでに酸化変色しており

カビとホコリが隙間に溜まっていました。

金具は錆びてぼろぼろ ネジはマイナス型で古いことは明らかです。

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ネジはドライバーを使うまでも無く 手で引いただけで

ごっそり抜けてしまうほど弱っていました。

これではある日突然に落下した・・・というのも頷けます。

 

大切な作品をお持ちの方!

どうか定期点検を行ってください。

表から見て何の問題が無くとも 裏を見ると驚くほど変化がある

というのも決して珍しいことではありません。

ホコリがたまっていると湿気がこもりやすく 酸化や腐食も進みます。

半年~1年に一度の点検と掃除で 大切な作品が危険から守られるのです。

 

「点検してください」2012年04月16日)

 

 

出張修復は大荷物 10月02日

 

この秋に 北里研究所所蔵の作品

「ロベルト・コッホ氏肖像画」につけられている額縁の

出張修復をおこないました。

Tokyo Conservation を通じてご依頼いただきましたので

当日は修復室長とともに 道具・材料一式を担いで伺いました。

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大きな額縁だったり 作品を取り外すのが困難だったり

現場での作業になる理由はさまざまですが

いつものスタジオや自分の作業部屋での作業とは違って

制約がありますから緊張感も高まります。

 

事前に伺い調査し写真を撮り 以前の修復に関する資料も頂き

修復計画をたてて北里研究所へ提出してありますが

予想される様々なことの その更に先の「万が一」を予想して

可能な限りの準備をして現場に入ります。

 

無事に作業が終わり担当の方にご確認いただいたあと

さぁ片づけようという段階に「準備が大げさだったな 要らないものもあったな」

なんて思う程度のほうが安心ですし そして作業は成功したということでしょう。

写真は上から 修復前 修復後です。

(Tokyo Conservation ブログ「修理屋の眼力」からお借りしました。)

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額縁の「修復」と「修理」 3月20日

 

いまさら何を言っているのだ?と思われるようなことですけれど

ずっと頭にあって結論に到達しない問題があります。

額縁は「修復」か「修理」か。

 

額縁にかぎらず修復工房の現場では

「昔修復されたけれど新たに修復の必要がある」もあります。

特に油彩画の場合は可逆性が重要ですから

修復は永久的な処置ではなく 観察をつづけて

その都度に必要な処置をしていくというのが基本スタンスでしょう。

絵が完成した時点により近づけることが絵画修復の目的です。

オリジナルがそれだけ重要である という考えです。

 

それでは額縁は?

額縁には絵画作品ほど可逆性は求められません。

絵画修復のように「以前の修復処置は必要ならばすべて取り除き

オリジナルの現在の姿に限りなく近く戻す事ができる」ことよりも

「中に納まる作品をいかに守り いかに現在の持ち主の

意向に沿った状態に整えるか」が求められます。

オリジナルよりも安全性と外観を重視する考えです。

このことから 額縁は「修復」というより「修理」である

とおっしゃる方も。

可逆性に限って言えば 額縁は「修理」が近いのでしょう。

 

額縁としての機能回復が目的なら修理?

その「機能」に何を求めるか・・・芸術性は含まれるのでは?

額縁は道具ではないけれど芸術作品とも断言できない

なんとも微妙な世界。

個人個人の考えで左右されます。

「修復」「修理」意味の違いを少し調べてみても

はっきり言い切れない。

意見それぞれにニュアンスが違う。

 

「修復」と「修理」

どちらが優れているか なんてことはありません。

高価で歴史的な作家が作った時計の場合は?修理?

数年前に完了した唐招提寺の平成の大修理は?大修復?

 

たった一文字の違いですけれど 感覚的には違いがあります。

わたしの中では未だ額縁は「修復」か「修理」か・・・

「修復」がより近いと感じているけれど 違うかもしれない。

いやまてよ そもそも感覚で話す問題ではないのではないか?

決着がついていません。

まだ考える必要がありそうです。

IMG_0973

「東京文化財研究所」の平成23年度報告に

朽津信明さんによる興味深い論文がありました。

「〔報告〕日本における近世以前の修理・修復の歴史について」

修理と修復の違いについて言及されています。

ご興味ある方は検索してぜひご覧ください。

 

大切にされた証 3月17日

 

いま修復でお預かりしている額縁は

クラシックで美しいデザインで

おそらくヨーロッパで作られたものと思われます。

今回修復ご依頼をくださったお客様の前の持ち主の時代に

修復された痕跡がありました。

角の装飾が欠けてしまって 少し色の違うクリーム状の材料で

おおまかに形を作っています。

DSC_6248

もしかしたらプロの仕事ではないかもしれません。

だけど おそらくこの額縁と作品に愛情を持って

大切にしておられたであろう痕跡です。

それから時間か過ぎた今 その修理の部分がまた欠けて傷みが進みました。

今回の修復では この欠けた部分に(他の欠損部分にも)充填し

古い修復部分の造形も手を加え 他の既存部分を参考にして

元の形を再現します。

古い修復跡も取り除くことはせず この額縁の歴史とします。

 

いつかまた必ず 修復をするべき時が来ます。

時と共に重厚さや趣を増して くりかえし修復を施され

大切にされた痕跡を積み重ねていってほしいと思っています。

 

 

するべきか せざるべきか それが問題だ 9月16日

 

修復するときに いつも思うこと。

それは「するべきか せざるべきか」です。

 

この傷をどの程度まで直すか? または

この傷は直さず残したほうが良いのではないか?

塗るか塗らないか?

亀裂を埋めるか埋めないか?

 

土台の木地のぐらつきを止めたり

錆びた金具の交換等は迷う必要はありませんが

表の装飾の色 経年で出来た傷などの補修は

作品とのバランスが取れていることが一番です。

古い絵にピカピカにした額縁は合いませんから。

 

センスと経験と・・・

 

額縁の修復を続ける限り 続く悩みです。

 

修復前

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修復後

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額縁と作品が接するところには 8月22日

 

いま古い額縁の修復をしています。

表側はベージュと金の装飾で凝っていて かなり華やか。

制作年代ははっきりしませんが

販売当時かなり高額だったと推測します。

ですが今は亀裂や欠け 浮き上がりがあるので

とにかく剥落止めをしてこれ以上壊れないようにして

そして洗浄して充填・・・と作業をすすめます。

 

さてこの額縁に納められていた作品は

キャンバスに油彩で薄塗りに描かれた風景画なのですが

作品の縁近くを見てみましょう。

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写真中央上 キャンバスの縁に白い部分がありますね。

そしてその下 前景の草が描かれたあたりにも

白い部分が連なって見えています。

これは絵具がこすれて剥がれてしまった いわば傷痕です。

拡大写真を見てみると

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絵具 そして絵具層の下塗りに当たる白い地塗りも剥がれ

キャンバスの布目まで見えるほど擦り切れ えぐれてしまっています。

この症状を「額擦れ」と呼びますが

その原因は 名前のとおり残念ながら額縁にありました。

 

この作品の額縁にはガラスが入っていませんでした。

つまり額縁とこのキャンバスは直に接していたのですが

その接していた部分 額縁の「かかり」と呼ばれる部分が

平らに整えられておらず 凸になった部分に長い時間こすれて

キャンバスに穴が開く寸前までに至る大きな傷を作っていました。

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上の写真はその額縁を裏側から見た状態です。

額縁の内側の縁に モジャモジャと白い線が見えますね。

これを拡大してみると

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額縁の内側の縁(かかり)の白いクリームが垂れているような部分は

木地に塗った石膏(あるいは胡粉等)下地が垂れたもので

いわばバリのような余計な部分です。

この垂れた凸部分が長い時間をかけて 作品に傷を作っていました。

これは本来 額縁を制作する段階で磨いて取り除くべきものです。

なぜこんなに立派な本額縁の「かかり」が整えられていないのか

職人さんが忘れただけなのか・・・不思議ではあります。

 

とにかく! 何はともあれ!!

中に納める作品に傷をつけてしまう額縁など本末転倒です。

今回は特に珍しい例 そして重症な例ではありますが

古い額縁に長い間納められているキャンバス作品に

「額擦れ」は決して珍しい症状ではありません。

そして「額擦れ」は中々防ぐのが難しいのが現実ではありますが・・・

大切な古い作品をお持ちの方は

額縁と作品が接する部分を気を付けて観察してみてください。

そして残念ながら目立つような擦り傷があったら

可能ならプロの絵画修復師に処置をご相談ください。

作品の修復とともに額縁の改良も行って頂きたいと思います。

具体的には 額縁と作品の間にクッション材を挟む等

様々な改良方法があります。

そして安心してまた額縁と作品が寄り添って過ごせるように。

 

 

里帰りでリフレッシュした5姉妹 5月30日

 

数年前に作らせていただいた引出用ツマミ5つ。

ひとつに傷がついてしまったとのことで

今日すこし修復作業をほどこし 整えました。

赤い表面がえぐれて 白い石膏下地が見えています。

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お客様にお引渡ししてからその後 毎日のように

使っていただいたツマミ5姉妹は味が出ていて

お嫁に行った娘たちが里帰りしたようで懐かしく

ちょっと嬉しい再会でした。

額縁と違い「手で触れて使うもの」ならではの変化が見られ

母(わたしです)も大変に感慨深い思いでした。

5つあるとそれぞれに 頻繁に開ける引出しのツマミと

あまり開けることがなかった引出のツマミで表情も違い

過ぎた時間を感じられます。

 

欠けを充填して磨いて補彩し 5つ揃えてニスの塗り直し。

それぞれクリップを台にして乾燥待ちです。

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艶もよみがえり またお役に立てる姿になりました。

これからも長くご愛用頂ければと思います。

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酸化してしまわないうちに 3月28日

 

以前(2011年)にご覧いただいたトピック

「額縁の簡単なリモデル」の続きをご紹介します。

ずいぶんと時間が空いてしまいました。

http://www.kanesei.net/2011/05/30.html

 

さて 額装してから40年以上経つ作品2点ですが

(額裏に1971年販売の記載がありました。)

裏板の色を見ても分かる通り 酸化が進んでいます。

埃や虫の侵入を防ぐための 紫の紙テープも酸化し弱っています。

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額縁を開けてみると 額装の様子は下の写真のようになっていました。

右上から順に 裏板 クッション用?波状紙 そして

マットに張り付けられた作品です。

これらにプラスしてガラスが入っていました。

作品を張り付けている紙テープは おそらく

額装用の無酸のテープで さすが劣化せず

接着材の状態も問題が無い様子です。

が・・・ テープをはがして作品を外してみると

マット裏にはくっきりと 酸化の跡が見られました。

内側が一段白く見えますが ここは作品があった部分。

ということは この茶色く変色させた劣化成分が

作品の裏にしっかり移ってしまっています。

おそらく 裏に当ててあった波状紙の影響でしょう。

 

これを防ぐためには 無酸のマットで作品を裏表から

しっかりと挟んでガードすることが大切です。

また マットや裏板は消耗品と考えて

定期的に交換することも必要な処置と思います。

 

次回はマット交換後の様子をご紹介します。

 

 

金の装飾額縁の修復 3月07日

 

イギリスの18世紀の画家が描いた水彩画が

納められていた額縁の修復をしました。

とても繊細な装飾が施されていますが

その繊細さゆえ 壊れやすかった面も。

以前にも何度か修復された痕跡がありました。

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極薄にかけられている石膏(恐らくムードン)下地が

鱗のようにめくれ剥がれ落ち

凸部分の装飾も欠けていました。

まずは慎重に汚れを取り除き 剥落止めをし

欠損部分を丁寧に整形していきます。

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小さな部分写真のみのご紹介で残念ですが

整形後に補彩をして 完成しました。

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今回修復した部分は 新しい欠損部分もあれば

以前修復された箇所が また壊れてしまっていたりと様々でした。

そうした古い修復箇所を観察することで

経過と再破損の原因を探る事ができたのも良い経験になりました。

 

この修復で1年でも長く額縁の寿命が延びることを祈ります。

長い間 大切にされていた額縁を修復することができて

わたしも幸せでした。

 

 

金色額縁の修復 1月31日

 

昨年 ずいぶん前にご紹介した額縁の修復ですが

http://www.kanesei.net/2012/06/14.html

こんな風に仕上がりました。

箔模様のつじつま合わせのような修復で

予想通り難しい補彩になりました。

技術は勿論ですが センスも問題ですね・・・。いやはや。

いつもながら「金」の修復は難しい。

箔を使った額縁の修復だからといって

必ずしも箔を使うわけではありません。

むしろ箔を使う場合が稀であって

普段は補彩によって色を合わせることがほとんど。

金属粉を絵具に混ぜたり 以前にもご紹介した

イギリスの「Goldfinger」を使ったり

http://www.kanesei.net/2011/09/29.html

これまた臨機応変に 額縁それぞれに合わせて使い分けます。

理由はと言えば 箔は色艶合わせが難しいこと。

金箔と一言で言っても 国によって時代によって色は様々

また 国産であってもメーカーやカラットで微かな違いがあります。

額縁の表面装飾を修復する場合 一番の目的は

傷を目立たなくし 周囲と馴染ませることですので

微妙な色の調整には やはり補彩に勝る方法は無い

・・・と 今のところ考えています。

 

 

 

青紙について考える 7月05日

 

日本で一般的に見るほとんどの額縁の裏には

「青紙」(緑だけど!)と呼ばれる紙が全面に貼られています。

いわば仕上げのお化粧のようなもので

むき出しの木地やベニヤ板を綺麗に保護する目的と思われます。

KANESEIでも青紙の水貼りテープを使っています。

(下の写真はKANESEI額縁ではなく他社製品です)

イタリアでの額縁修業先であるマッシモ氏の工房では

木地に水性木工用塗料(ステイン等)を塗って仕上げていましたので

青紙を貼るのは日本独自の製法だと思っていたのですが

先日修復でお預かりしたイギリスの100~140年程前の額縁にも

紙が貼りこまれていました。

とはいえ額縁本体ではなく ライナーに貼ってあり

その目的は不明ですが 恐らくこれもお化粧でしょう。

元の色が分からないほど汚れ酸化した紙と接着剤で

見るも無残な状態になっていました。

ホコリとカビ 湿気の温床でもあり

納められていた作品に良い環境のはずがありません。

修復にあたり この酸化した紙と接着剤を取り除く必要があります。

削り取れる部分はすべて削り 必要最低限の水を含ませてはふき取り

最終的には 大量の埃の山と化した紙でした。

乾燥した古い木地に水分を与えるのは

大変危険な行為で細心の注意が必要です。

紙を剥がし取るだけでも費やされる作業量は少なくありません。

 

良かれと思って施された紙も 100年後には害でしかない・・・。

青紙の必要性と危険性を 一概に天秤にはかけられません。

日本国内で展覧会に出品したり売買の時の評価として

青紙で仕上げられていることは現状では必要なことと言えるでしょう。

すでに日本での「額縁の仕様」として定着しているからです。

でも長い目で見ると また納められている作品への影響を考えると

果たしてこの青紙の存在はどうなのだろう?

シンプルに木地のまま仕上げても良いのではないか?

今すぐに青紙を使わない仕上げにするのは

難しいかもしれませんが たとえば全面に貼らず

必要最低限に減らしたり ライナーには絶対に貼らない など

徐々に改善できればと思っています。

 

青紙についての一考察でした。

 

 

臨機応変に 6月14日

 

最近は額縁の制作より修復の様子を

ご紹介する機会のほうが多くなっておりますが

今日もひきつづき。

 

額縁の修復と一言で言っても すべての額縁の症状は違いますので

修復方法も使う材料もまたそれぞれの額縁にあわせて

臨機応変に作業を進める必要があります。

その選択が難しく・・・これはひたすら経験を積むのみ。

修業は続くのです。

 

さて いま修復でお預かりしている額縁は

まだ新品と言って良いでしょう。

ですが一番目立つ部分に大きく穴があいてしまいました。

おそらく鋭利な角にでもぶつけてしまったと推察します。

こうした新しく痛みが他にない額縁の修復は

年季の入った額縁修復とはまた違った難しさがあります。

 

この額縁は箔に斑が入ったような模様になっていますので

最後に彩色で合わせていく予定です。

美しく仕上げようと思います。

 

 

 

100年前に作られた額縁修復 5月14日

 

先日 Tokyo Conservation でお受けした額縁の修復が

ようやく終わりました。

明治から今も続く老舗店製作の額縁で

この額縁に納められている作品もまた大正の巨匠の傑作です。

おそらくこの額縁も大正初期に作られたと思われます。

こうした歴史的にも芸術的にも貴重な作品と額縁を

間近で見ることができるのは 修復に携わる者の

特権と言えますが また反対に大きな責任でもあります。

 

さてこの額縁ですが・・・実は少し不思議な額縁でした。

一般的に日本の古い額縁によく見られる構造は

木地に胡粉による下地が塗られているのですが

この額縁は木地に繊維状の物(紙?)が張り重ねてあり

まるで張り子のようになっています。

経年劣化で木地と繊維状物質の間に浮き上がりが出来てしまい

簡単に破れて穴が開きそうな不安定な状態。

今のうちに補強・接着しておかなければなりません。

なかなか難しい修復でした。

写真2枚は木地と繊維状物質が浮いて破れてしまった部分。

上写真の白い部分が充填中 下が補彩後です。

点検してください 4月16日

 

いま修復でお預かりしている真っ白な額縁は

表から見ると 数か所に欠損がある程度で

十分にきれいで新しい額縁に見えます。

ですが 裏を見てみると・・・

紐を通した釣り金具も 裏板を留めるトンボ金具も

かなり錆びてもろくなっているのがわかります。

金具には本来 錆びない素材(ステンレス等)を

選ぶのが望ましいのですが そうではない額縁も多々あります。

錆びた金具で 危うく壁にかかっている額縁は

ある日突然金具が耐え切れなくなり

ちょっとした地震で落下し 作品もろとも壊れてしまう・・・

なんてことになりかねません。

そんな事故が起こる前に 耐震や災害時の対策準備の一つとして

額縁の金具もぜひ 点検・交換をしてください。

 

 

平成22年度 東京国立博物館文化財修理報告 3月26日

 

先日 上野の東京国立博物館から紀要が届きました。

「平成22年度 東京国立博物館文化財修理報告 Ⅻ」です。

(株)ディヴォート Tokyo Conservation の事業で

わたしが携わらせて頂いた博物館所蔵額縁の修理・改良について

報告がまとめられています。

小さな仕事でも 紀要の中にわたしの名前を残して頂けるのは

有難く 気持ちも引き締まります。

また来年度も お役に立てるよう頑張らなくては。

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玉木商会の額縁 その後 9月19日

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銀座一丁目にあった玉木商会。

そこで大正時代に作られたであろう額縁の

修復が終わりましたのでご紹介します。

一番欠損の激しかった部分(先日もご覧いただいた部分)を

写真でご覧いただこうと思います。

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額縁の左下角にあたる部分の装飾がすっかり無くなっています。

幸いにも 左上の角は欠損なく残っていましたので

ここからシリコンで型を取り 石膏を流し込んで

装飾レリーフを再現します。

レリーフ作りと同時進行で 浮き上がっている部分に

これ以上欠損が出ないように接着剤を入れて補修し

裏面の補修もします。

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型から取った石膏のパーツを削り 欠損部分に合わせます。

今回は4つに分けて型を取りました。

欠損している場所を整え 石膏パーツを接着します。

エポキシ系のパテを使って細かい部分の補修と隙間調整も。

上の写真は石膏パーツの一部分 右のあたりに

補彩の色をのせて 様子を見ているところです。

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さて 補彩が完了しました。

色を塗り重ね 周囲のオリジナルとできるだけ

近い色味と質感に調整し 最後に軽くニスをかけて終わりです。

作業をしている部屋は蛍光灯の明かりの下ですが

自然光や電球色の光での色味も確認します。

蛍光灯では色が合っているのに 自然光だと全くだめ!

ということも 無きにしも非ず・・・なのです。

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以上 額縁のレリーフ再現のご紹介でした。

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必殺 井の字固め 9月05日

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四隅の接合部分が開いてしまった額縁に

接着剤を注入して修復しています。

ヒモで縛って しっかりと。

必殺 井の字固め の技でした。

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額縁の簡単なリモデル 前編 5月30日

 

以前からずっとお持ちの大切な作品で

展示に不自由はないけれど

額装が古びた印象になってしまった・・・

という作品はありませんか?

修復や額縁本体の交換など大掛かりでなくても

木枠を磨き直しマットを交換するのは

スッキリと美しく甦らせるに効果的な方法です。

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こちらの作品2点は1971年に額装された記載があります。

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木枠はところどころの傷やスレが目立ちます。

マットは日焼けしていますし 色が作品と合っていません。

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裏面を見ますと ベニヤ板は酸化して色が変わり

吊り金具にも錆が出て劣化が始まっています。

こうした酸化や劣化が 作品に大きな影響を与える前に

交換できるものは交換してしまうことで

作品の寿命も延びます。

今回はビフォーのご紹介。

近々 交換後のアフターをご覧いただく予定です。

どうぞお楽しみに…

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大正11年に その後 2月14日

 

先日ご紹介した 坂本繁二郎の作品に

付けられていた額縁の修復が終わりました。

http://www.kanesei.net/2011/01/31.html

長かった作業もどうにか終り 一段落です。

写真はそれぞれ上が修復前 下が修復後 です。

(色味が前後で変わっているのは 撮影技術の悪さが原因です・・・)

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剥落止めをして 欠けていた装飾を復元し 補彩しました。

木枠の緩みも当て木で補強し 新しい木枠を足して

キャンバスが納まる高さにし トンボ金具も付けました。

「大正十一年」記載部分に木枠が架からないように

部分的に細くして取り付けることにしました。

裏板には無酸で紫外線カットのポリカーボネート板を使用。

カカリにはポリエステル素材のクッションをつける予定です。

 

この額縁が付けられている繁二郎の油画作品も

同時進行で修復作業がほどこされています。

http://tcstudio10.exblog.jp/15477678/ 

(Tokyo Conservation スタッフ・ブログ「修理屋の眼力」)

綺麗によみがえった作品同様 額縁も元気になって

また一緒に長い時間を過ごしてもらう事が出来そうです。

 

この額縁はまたいつか壊れてしまう時が来るでしょう。

願わくは 捨てられずに修復してもらえますように。

 

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大正11年に 1月31日

 

大正11年の記載がある額縁の修復をしています。

洋画家 坂本繁二郎(1882~1969)が描いた

海岸風景の美しい作品につけられている額縁です。

 

杉材の木枠に石膏(または胡粉)を塗り

四隅の彫刻には型取りしたものが取り付けられています。

デザインなどを見る限りでは 日本で作られた額縁です。

でも現在は その彫刻も大きく欠け

ところどころ木地が見えている痛々しい状態。

乾燥して今にも剥がれ落ちそうな部分には

何はともあれ剥落止めをして それから作業開始です。

木枠の緩みも接着剤を入れ あて木をして補強します。

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美味しいからか お腹が空いていたのか

ねずみがかじった跡も見られました。

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ここまで傷むと修復にもおおきな手術が必要。

既存の部分もある程度削り取り 

新たに型取りした石膏をはめ込む予定です。

 

大正11年は1922年 今から90年ほど前。

どちらの職人が作った額縁でしょうか。

おそらく今は天国におられる その職人さんに

安心してもらえるよう 丁寧に直すつもりです。

修復が完成したら またこちらでご覧頂けるように

準備しようと思っております。

 

ねずみのご飯にならないように

中に納められている絵画作品を危険にさらさないように

長いあいだ収納してある額縁をお持ちの方は 

ぜひ定期的に点検してみて下さい。

 

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作品とともに生きる 9月16日

 

作品とともに長い時間を過ごす額縁ですが

経年や環境で劣化しますし 事故で破損することもあります。

それは額縁の寿命が尽きたのではなく

怪我や病気をした程度という場合が多いのですが

作家が手を加えた額縁でない限り

残念ながら廃棄されてしまう存在でした。

額縁は作品とは違い「壊れたら交換するもの」

と思われていた傾向があるようです。

ですが近年は額縁も作品の一部として考えられるようになり

修復して引き続き利用しようという美術館やコレクターの方が

大変増えてきたように思います。

これはとても心強く 嬉しいことです。

その額縁が選ばれた理由や経緯 

額縁の歴史などを考えても できるだけ既存の額縁を

修復して頂きたいと心から思っています。

 

KANESEIでは額縁の修復も承っております。

壊れた額縁を出来る限り復元し 強度が増すようにし

美しい状態でまた作品と寄り添っていけるように

ささやかながらお手伝いさせて頂きます。

 

*画像は上から 修復前 修復中(破片を接合・充填) 修復後

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行く末は誰にもわからない 8月09日

 

古いものが好きなわたしにとって

壊れたり傷んだ美術品を修復する仕事は

とても興味深い作業です。

この作品はどこでどのような時間を過ごし

今に至るのでしょうか。

完成して作家の手を離れた瞬間から

その作品は独自の運命を辿りはじめます。

屋根裏部屋に長いあいだ捨て置かれたがゆえに 

奇跡的に保存されていたような作品がある一方で

大切にされていても事故で損なわれてしまうことも。

人と同じように美術作品の行く末は 誰にもわかりません。

でもせめて わたしが修復させていただく作品には

少しでも長く 美しい姿でいて欲しいと思っています。

 

欠けた彫刻の一部を復元して戻し

色や艶をあわせて現存部分と違和感無くつなげる作業。

それぞれの時間を過ごし わたしの手元に

修復されるために辿り着いた作品には

お疲れ様でしたという気持ちと共に

応援と感謝を込めての作業を。

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新しい額縁と古い額縁と 7月04日

 

私は主にKANESEIの名前で新しい額縁を製作していますが

恩師が主宰する絵画修復工房で額縁修復の仕事もしています。

美術館や画廊 個人コレクターの方などからのご依頼頂き

破損したり経年劣化した額縁をお預かりします。

落下事故などにより破損した額縁は できるだけ破損前の状態に復元し

経年劣化の場合は磨いたり痛んだ金具を交換したり

あるいはガラスが無かった額縁にはガラスを入れられる細工をして

また元の作品に寄り添うことが出来るようにします。

ただ修理して直せばよいだけではありません。

傷を目立たないようにし 劣化の速度を落とせるよう補強し

できることなら修復することによって強度が増すように努力します。

出来たばかりのようにピカピカにする必要はありません。

100年前に作られた額縁なら 美しく100年を経た趣を保ちつつ

補修し補強するのが額縁の修復だと思っています。

とても繊細な作業であり奥深い仕事です。

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