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額縁の作り方 11 角に塗るときどうするの ボーロ、絵具と石膏の違い 8月31日

 

2017年8月もとうとう終わり。

秋が見えてきたでしょうか。

 

先日の筆の持ち方に続いて、Atelier LAPIS の生徒さんから

なんどか受けたご質問があります。

それは「角に筆でボーロや絵の具を塗る時、どうしたらいいの」です。

 

額縁は4本の棒を四角に(ほとんどの場合)組んであります。

棒の接続部分にそのまま塗り進めたら、角だけ2重になる?

その場合、角だけ分厚くなって色味やテクスチャーが変わってしまわない?

それとも片方の角だけ塗りながら順番にぐるっと塗る?

 

額縁職人ひとりひとり、好みや癖、そして理論があって

わたしの方法がベストではなく、「わたしはこうしています」

というご紹介を前提としてお話しますと、

下の写真のようにおおまかに45度の角度で塗ります。

今回はボローニャ石膏地に弁柄色を塗った上に黒を塗っています。

絵の具の濃度が適切であれば、特に濃い色の場合は

角が2重になっても問題は無いと思います。

 

ボローニャ石膏を塗る時は、角から角へ一直線に塗ります。

(写真のように45度で止めず、木枠の端から端へ筆が抜けるように。)

すると、角は2重になります。

この「角がわずかに厚い下地」があることによって

完成した額縁は、何と言いましょうか、上品な趣が生まれます。

豊かな安定感のような、おおらかさのような。

その他にも、角はどうしても欠けやすいので欠け防止のために、

あるいは留め切れ防止に和紙や布を貼った場合には

きちんと隠す必要があります。

ただ、角だけ2重と言うことは他の部分より乾くのが遅い訳ですから

角に塗り重ねていくときは筆の運びに注意を払う必要があります。

下の生乾きの層を崩さないように。

そしてもちろん、木地の形によってはあえて重ならないように

塗る場合もあります。

細かい装飾(彫刻など)がある場合は臨機応変に。

 

ということで、今日のご質問への答え。

「ボーロや絵の具は角は45度で。すべての厚さをできるだけ均一に」

「ボローニャ石膏は角を心もち厚めに(2重に)、慎重に」

以上、ご参考にして頂けましたら幸いです。

 

 

吉田博展 8月28日

 

23日の夕方、Tokyo Conservation の仕事のあとに

新宿で開催中の「吉田博展」を観に行きました。

毎度のことながら会期末ギリギリ、この日は閉館もギリギリの時間。

ですが会場は老若男女(若い人も沢山)で中々の混雑でした。

 

吉田博は版画家として有名なのでしょうか。

わたしにとって吉田博作品は油彩画にとても馴染みがあります。

Tokyo Conservation では数年前に吉田博をはじめ

妻のふじを、そしてご家族の方々の作品を修復させて頂きました。

その時に間近に観て触れた博の作品は、それはそれは

見惚れるように色が美しいのが印象的でした。

山や雲を描くピンク、水色、緑、紫の色はそのまま

戦争画にも使われていて、厳しい画題と画面なのに

その色使いを見ると吉田博は戦争中も冷静に自分を失わず

描く努力をしていたのだ・・・と感じるのでした。

 

今回久しぶりに再会した吉田博の作品は、修復の場で

見ていた時とは違い、白い壁でライトアップされていて

「よそいき」の顔をしていましたが、やはり清々しい美しさでした。

ガラスが無い額縁に納められている作品もあって

筆跡がダイレクトに感じられる反面、やはり汚れやすいからか

画面全体がうっすらと灰色がかっていたりして、

繊細な色使いが陰に隠れていたのがすこし残念でした。

 

それはさておき、やはり吉田博の作品に触れられるのは

幸せな、そして深呼吸したような気持ちにさせてもらえました。

展覧会は昨日終わってしまいましたけれど、大変盛況でしたので

また近々きっと展覧会が開催されることでしょう。

その日を楽しみにしたいと思います。

 

金箔の色を選ぶ 8月24日

 

引きつづき水押しの金箔が使われた額縁と

オーナメントの 修復の模様からお伝えします。

 

新しく補った花弁を再生し、石膏の整形も終わりました。

オリジナルと同じように、赤色ボーロを塗ります。

問題は箔の色。

金箔にもカラットがいろいろあって、色味が違います。

今回は3号かな、4号かな。

どの箔を使うかは、箔置き後の作業である

メノウ磨きや艶、色合わせも考慮して決めます。

 

すこしメノウ磨きをしてみて確認しましょう。

ふむ・・・

予定通り。大丈夫そうです。

ちなみに隣にある棒状のものは、自作の箔色見本です。

赤色ボーロ(メインに使われるボーロ)にカラットの違いで3種の金箔。

この写真では分かり辛いのですが、ほんのりと微妙に

色味が違うのですよ。

修復する額縁と箔色見本を並べて計画を立てます。

これが1本あると便利です。

 

 

Atelier LAPIS(アトリエ ラピス)の様子から 2017年8月 8月21日

 

油彩の模写をしておられるIMさんの 新しい作品は

優しい微笑みのマリア様です。

(ティツィアーノでしたでしょうか。うろ覚えですみません。)

今回の額縁はシンプルに全面を 金箔の水押しにしました。

木地が硬めの材でしたが、箔作業もとても綺麗に仕上がりました。

箔は側面にも。

わたしは普段、額縁の側面には箔は貼りません。

イタリアの額縁師匠マッシモ氏の作り方 と言いますか

イタリアでは貼らないのが ノーマルなようです。

でもこうした小品の側面に箔仕上げを施してあるのも美しいですね。

 

これから艶消しにして仕上げです。

IMさん、いつも丁寧に額縁を作ってくださり

ありがとうございます!

 

 

他人のものに手を加える恐ろしさ 8月17日

 

全面に純金箔水押しの額縁修復を続けています。

そんなに古い額縁ではない、おそらくイタリア製。

木地とボローニャ石膏の間に空気の層が出来ていて

亀裂からパイのようにパリパリと割れて剥がれてしまうという

かなりの重症患者なのですが、ひたすら剥落止めをしつつ

石膏で充填して磨いて整形して、という作業をしています。

 

それにしても。

修復作業とは恐ろしいものです。

持ち主は他人(ご依頼主)で、大切なお金を払ってでも

額縁を健康で美しい状態に戻したいと願っていらっしゃる。

更にその額縁は他人が作ったもので

多くの場合は制作者はすでに亡き人かもしれない。

そんな額縁に刃物を入れる必要もある・・・

ご依頼主や制作者である「他人」(表現が悪いけれど)の

気持ちを背負って、二つとないものに手を加えるのは

大変緊張感を伴います。

考えたら、恐ろしくて手が震えそう。

 

緊張しすぎて萎縮すると必要な処置ができなくなるけれど、

制作者の気持ち、修復を依頼して下さった方の気持ち、

この緊張感、「人の心」を忘れないようにすることが

修復をするうえで忘れてはならないこと、と感じます。

まったくもって「私」が入る余地はありません。

 

夜にひとりでコツコツと修復作業をしていると、

今は亡き制作者が後ろに立って、じぃ~っと覗き込んでいる?

などとふと、思うことがあります。

わたしが作った額縁を、わたしの死後に修復してもらえるなら

どこからか、きっと覗きに来ずにはいられないでしょう。

 

このお話をしたのはお盆の記憶が新しいから

というわけではありませんよ・・・。

 

 

2歩下がっても1歩進めれば 8月14日

 

残暑お見舞い申し上げます。

 

お盆で夏休みの方が多いでしょうか。

わたしは今日も今日とて作業をしています。

普段のルーティーンである Atelier LAPIS 、

絵画修復スタジオ Tokyo Conservation の仕事や

お茶の稽古がすべてお休みの1週間ですので

自宅での作業に集中できて、なかなか充実しています。

 

目下取り掛かり中の額縁修復は・・・ううむ

3歩すすんで2歩下がる、の毎日。

まずは1歩ずつでも進んでいますので良しとします。

修復に焦りは禁物。コツコツまいります。

 

暑さの疲れが出る時期です。

ご自愛くださいませ。

 

 

とちもち、もちもち食べてみたい 8月10日

 

家族がゴルフ場からひろってきた栃の実です。

にわとりの卵よりすこし大きいくらい、

香りは土と青い草の混じったような、森の匂いがします。

お尻を見ると3つに割れている。

中には栗の様な模様の、もう少し大きい実が入っていて

熟すとこの3本の割れ目からパカッと割れて実がひとつ。

割れた姿はアボカドを半分に切ったみたいな感じです。

(検索してみた写真によると。実物は見たことがありません。)

今の状態はまだ実が殻につつまれていて熟れていないようです。

栃の実ってこんなに大きいのですね。びっくり。

ちなみに栃の木材は木目が美しいので

木地仕上げの額縁に使う工房もあります。

 

実はお餅にして食べたりできるそうですが、

灰汁抜きをしたりと大変な手間が必要だとか。

脂肪の吸収抑制効果、抗酸化作用(ポリフェノールが豊富)

などなどかなり魅力的な食材になるみたいです。

食べてみたい!

どんな味でしょうか。ほろ苦い?甘みがある?

 

とはいえ、食べるにはせめて5~6個は欲しいところ。

今回はしばらくこのまま観察を続けてみようと思います。

熟して弾けて実が出てくるでしょうか?

中から虫ちゃんが出てこないことを祈ります・・・。

 

 

ウサギ膠 味噌汁風? 8月07日

 

古典技法に欠かせないウサギ膠です。

膠を水で1:10で溶いて冷やすと

下の写真のようになります。

味噌汁ゼリーの様ではありませんか?

色も透明度も、見るからにお味噌汁風。

ブリブリとして、歯ごたえも口溶けも想像できます。

ガラス器にシソの葉を敷いて、ボイルした小エビ、

オクラやミョウガの刻んだのをトッピングしたりして

夏の一品・・・なんちゃって。

膠はゼラチンですからね、ちょっと美味しそう。

もちろん食べてみる勇気はありません。

 

右巻きか左巻きか 8月03日

 

6月に完成した額縁「花輪」を作っているとき

ずっと気になっていたのが、リボンの巻く方向です。

わたしは無意識に左に巻き上がる方向にしましたが、

参考にした本「FRAMING THE NINETEENTH CENTRY」に

載っている額縁は、後から数えてみたところ

右巻き左巻きがだいたい半々なのでした。

最初は利き手の方向が関係するのかな、と思いましたが

巻く方向にこれといった理由が見つかりません。

 

我が家の今年の緑のカーテンはツンベルギア。

ゆっくりながらも毎日着々と成長しています。

先日、柱に巻きつく姿をながめていたら気づきました。

「はっ、右巻きだ!」

植物はすべて右巻きなの?私は植物的には異端?!と思ったら

どうやら「蔓の巻きつく方向は遺伝子によって決まる」とか。

地球の北半球南半球関係なく、そして種類によってそれぞれ

右巻きの種もあれば左巻きの種もある、ということ。

(アサガオはツンベルギアと同方向、藤は反対方向だそうです。)

どっちもあり。

それなら額縁のリボンの巻く方向なんてナンセンス。

心地よく思う方向はひとそれぞれなのでしょう。

わたしは藤タイプとでも言いましょうか。

藤の花が好きですが、ますます親近感を覚えたりしつつ

どうでも良いことだけど気になっちゃった一件は

蔓を理由にして落着とします。

めでたしめでたし・・・かな?