diario
冬支度開始 8月29日
8月が終わりに近づくと、もう冬の準備です。
気が早い? そんなことも無いのですよ。
毎年暮に開催される「小さい小さい絵」展の準備です。
フィレンツェのリッカルディ宮殿内にベノッツォ・ゴッツォリが描いた
フレスコ画からテンペラで部分模写しました。
どんな額縁にいれましょうか。
金かな、黒かな、グレーかな。
しばらく絵を眺めて考えることにします。
What is the cornice? 8月25日
“cornice”
わたしにとってまず頭に浮かぶのは
イタリア語で額縁をさす言葉「コルニーチェ」です。
先日、お客様とメールのやり取りで
祭壇型額縁制作の打ち合わせをしました。
その際「corniceは3段にすること」とのご指示がありました。
cornice? 額縁は3段? どういうこと??
じっと文章を眺めて、気付きました。
「ああ、コーニスのことか!」
上の図は wikipedia よりお借りしました。
3番の部分をコーニスと言います。
軒下の出っ張り部分のこと。
上の写真は今年作った帆立貝のタベルナーコロ(祭壇型額縁)です。
上部紺色の装飾模様の上、彫刻の部分2段とその上1段までがコーニス。
この祭壇型額縁もコーニスが3段の構成です。
祭壇型の額縁はギリシャ神殿のような形で様々ありますが、
屋根や軒、柱などのデザインが入っていますので
部分の名称も建築用語そのままです。
そして、額縁の起源は扉や窓の枠。
改めて額縁と建築は切っても切れない関係であること、
また英語はラテン語から派生した言葉であることを
納得したのでした。
コーニスとコルニーチェは同じ綴り。
なるほど・・・そうだったのですね。
Atelier LAPIS(アトリエ ラピス)の様子から 2016年8月 №2 8月22日
土曜日コースで木地作り~ボーロまで終えて
月曜コースに変更なさったSUさんの
はじめての古典技法額縁が完成しました。
5月後半、ようやく金箔の水押し作業も終わりが見えてきました。
装飾部分の凹凸に箔を入れる繕いに苦労しましたが
こつこつと作業を頑張りました。
7月、箔作業を終えて色を塗りました。
灰色がかった青。
下に補色の黄土色が塗ってあるので青に深みがあります。
さて、いよいよ楽しい古色付けの作業ですよ。
傷をつけてから金箔を磨り出して、ボーロの赤を見せます。
そしてワックスとパウダーで汚しました。
最後は手のひらで撫でてワックスとパウダーを
しっかり丁寧に定着させます。
この「手のひら磨き」で出る趣は効果大です。
そして完成しました。
実物は青に落ち着きがある、上品な仕上がりです。
古色も上手につきました。
はじめての古典技法としてはハードルの高いデザインでしたが
根気よく制作なさった成果が発揮されました。
SUさん、ステキな額縁を作ってくださりありがとうございました!
心が向かうのは 8月18日
金継ぎが仕上がった猪口で乾杯です。
拙い仕上がりながらも
自分で繕った猪口でいただくお酒は美味美味。
気づけば
額縁修理も金継ぎも、Tokyo Conservation での絵画修復も
「壊れたものを直すこと」に情熱を傾けています。
入院中の天使 8月15日
翼の折れた天使。
歌のイメージとはちょっと違う天使ですが
心なしか悲しそうな表情です。
ただいま額縁の病院、KANESEIにて新しい翼を再生しています。
まだまだ作業はつづきます。
はやく元気にして差し上げなければ。
鯛牙棒 8月11日
わたしは誰でしょう・・・
カタカタ
答えは鯛。
あごの骨、半分です。
スーパーで一番大きな鯛の御頭をかってきて兜煮にした残り。
身は美味しくいただいて、あご骨も大事にキープします。
なぜこんなものを準備したかというと
「鯛牙棒」という道具を作るためです。
金継ぎ(金繕い)などで使われる蒔絵の金属粉を磨く道具で
額縁古典技法のメノウ棒とおなじような用途です。
一番大きな牙を抜いて、粘土細工のヘラ先に穴をあけて差し込みました。
簡単そうに書いていますが、なかなか大変な作業だったそうです。
・・・はい、わたしが作ったのではなく、作ってもらったのです。
牙の反対側のヘラ部分は、ちょっとした「付け箆」にも使えそう。
先日、ちょうど線刻模様額縁の金箔を磨く機会があったので
ものは試し、鯛牙に登場してもらったのですが
細いみぞもバッチリと磨けたのでした。
ヨーロッパでも昔、メノウ棒だけではなくオオカミの牙などでも
磨いていたそうです。
日本では馴染みのある魚、鯛の牙をつかって
ヨーロッパ古典技法の額縁を磨く。
和洋折衷でございます。
下の写真は、金継ぎの先生が見せて下さった鯛牙です。
右から2本目以外は先生の手作りだそうです。
6角形の軸に根本は漆仕上げ。
プロならではのシンプルでかっこいい道具でした。
女の子と斜子織 8月08日
先日ご覧いただいた青海波の額縁に収まった版画は
もう1点とペアなのでした。
こちらはお正月の柄、ピンクベースで華やかです。
鶴亀に松竹梅、鏡餅、打ち出の小づちや海老鯛などたくさん。
さて、青海波の相棒はどんな模様にしようかしらん・・・
ピンクで女の子が好みそうな図柄、おめでたいし、
紅白にして、織物風の模様にすることにしました。
複数の縦糸横糸で織る方法を「斜子織(ななこおり)」
というそうで (1本の縦糸横糸の場合は平織)
この模様も古くからあるとのことです。
「ななこ」という響きも女の子の名前のようでやわらかですね。
「works」内「modern」にこちらの額縁をアップいたしました。
どうぞご覧下さい。
Atelier LAPIS(アトリエ ラピス)の様子から 2016年8月 №1 8月04日
小鳥の好きなMIさんがツバメのテンペラ模写を
完成させたのはしばらく前のことです。
どんな額縁にいれましょうか、悩んだ結果
「ぎゅっと詰まった濃い額縁」に決まりました。
額縁の本にあった金と彩色で装飾された額縁を作ります。
5月はじめ、金箔のミッショーネが終わり
(このミッショーネが一苦労でした!)
テンペラでの花、鳥などの彩色も完成間近になりました。
箔の上に卵黄テンペラ絵の具は弾かれてしまうので
ほんの少しのオックスギャル(牛の胆汁液)を加えました。
この液は 界面活性剤の役をします。
今回は艶ありのラッカーで仕上げて古色はつけません。
額内側には濃紺のベルベットを貼りこんで、
ツバメの作品を額装して裏板を閉じて・・・
ドキドキワクワクの時間です。
さぁできました!
ツバメのテンペラ模写は、背景がグラッフィートで
森やお城が描かれているのです。
(写真が悪くて恐縮です)
B5ほどのサイズに納まったMIさんの世界が完成です。
物語を感じさせる素敵な作品を作って下さり
ありがとうございました!
ソナチネの木 8月01日
詩はお好きですか。
普段は書店で絵本を手に取ることが減りましたが、
先日一目で何もかもに惚れてしまって
一目散にレジへ向かった本があります。
岸田衿子の「ソナチネの木」
挿絵は安野光雅ですから、詩集であり絵本でもあり。
すべての詩が4行で構成されていて和歌のよう。
鳥 城跡 仔馬 雪の林の奥 昼と夜 音楽 幻の野辺・・・
日常で使う言葉でつづられているけれど、単語一つ一つにはっとさせられて
日本語の美しさと抒情を感じられる。
そしてヨーロッパの古い写本のような挿絵との組み合わせ。
あっという間にふたりの夢の世界へ連れて行かれてしまいます。
アニメ「赤毛のアン」の主題歌の歌詞を書いた岸田衿子と
「旅の絵本」「天動説の絵本」「ふしぎなえ」の安野光雅
このふたりの作品は、物心つく前から少女のころにかけての
わたしの心を形作る欠かせないものになっています。
大人になって、この「ソナチネの木」がまた新たに加わりました。
「ソナチネの木」
岸田衿子 / 安野光雅
青土社
2006年8月10日 第1刷発行