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どこまで直すかはお好み次第 5月30日

 

お預かりしていた小さな額縁の

修復が終わりました。

1800年代フランスの板絵が入っていて

額縁もおそらく同時代の物と思われます。

この額縁もまた、長い年月の間に

なんども修復の手が入った跡があります。

写真は上が修復後、下が修復前。

相変わらず写真が下手なのはご容赦ください。

 

 

 

修復後の写真をご覧になって、

「これで直ったと言えるの?

まだ割れている部分もあるし

留め切れ(角の接合部分の開き)も

汚れもそのままじゃないか」と

思われるかもしれません。

 

額縁に限らず、何かを修復する時

どこまで直すかというのは大きな問題です。

今回だって木地の歪みを戻し、留めをつなぎ、

欠損に石膏を詰めて全面に金箔を貼り直せば

まるっとピカピカに戻るわけです。

古くてあまい修復跡も直してしまえばいい。

 

でもお客様はこの雰囲気がお好きです。

欠けや留め切れ、金の擦れも気にならないとのことですし、

なにより絵の雰囲気によく合っているのです。

今回はご意向に沿って最低限の装飾復元、

木地緩み固定とカカリの改良のみを行いました。

 

絵が違和感なく額縁に納まって

安全に保存・展示できるのならそれで良い。

もし「やっぱり他の部分も気になる」と

思われたなら、その時にまた直せば良いのですから。

 

大切なのは「修復する目的と理由」

そして「完成イメージ」を理解して

お客様と共有すること、と考えています。

 

 

翼に乗る怪物 5月28日

 

ボーイング737に乗りました。

席はちょうど翼の上。

おおきな翼は地上では垂れ気味だけど

空の上では美しい反りがあります。

この辺りに座るといつも思い出す

「風の谷のナウシカ」コミックのワンシーン。

骸骨姿の「虚無」がもっともそうなことを言って

ナウシカを丸めこもうとしています。

ドキドキします。

 

飛行機の翼に怪物が乗っているシーンは

昔に観たホラー映画にもあったような記憶です。

「翼に怪物が乗っていたら」は

皆が考える恐怖のひとつ、なのでしょうか。

くわばらくわばら・・・

 

 

額縁の作り方 19 ジョットの弟子になった気分で 5月25日

 

こうして「額縁の作り方」なんて言って

おこがましくガサガサ書いておりますけれど

興味を持ってくださっている方は

いらっしゃるのでしょうか。

・・・めげずにつづけます。

何せ diario 「日記」ですからね!

開き直り気味です。

 

さて、凹凸に金箔を置いて繕いもして

磨き終えました。

はみ出した金箔はコットンや柔らかい筆で

払い取りましたが、取りきれませんでした。

次は色を塗る作業がつづきます。

下の写真、白い部分です。

 

ここでまた例の疑問が再燃してきます。

ボーロや箔を色で塗りつぶしても良いか。

ですが今回は「良し」とします。

先日の講演で福永先生の調査によると、

ジョットの黄金背景テンペラ画では

金箔は大胆に貼り、はみ出した部分、

聖母子の顔など大切な部分であっても

テンペラ絵の具で塗りつぶしている。

チマチマと削り取ったりしていない。

それでも500年以上絵具層は保たれている!

(もちろん保存修復されたうえで。)

 

わたしの基本姿勢は、やはり今まで通りに

必要な部分にだけボーロを塗るけれど、

箔がはみ出したら乾拭きで取り除く程度にして

少々残ってしまった箔は塗りつぶしでOK

そんなところでしょうか。

 

結局ボーロ塗り分けの手間は省けないけれど、

この「箔を塗りつぶすか問題」は

わたしの長年の疑問でしたので

気持ちがすっきりしました。

 

そんな訳で、わたしもジョットを見習って

今回は塗りつぶし作戦に出るつもりです。

次回、まずは下色を塗ります。

 

 

ヒヤ子と真珠3姉妹、夏の眠りへ 5月23日

 

春に花を終えて、ここしばらくは

緑の葉を茂らせていた我が家のヒヤシンス団を

そろそろ引き上げることにしましょう。

球根を土から掘り上げてみました。

 

庭のヒヤ子(デルフトブルー)を取り出したら

なんと。

やはり球根が分裂、というのでしょうか

分球して3つになっていました。

どおりで今年は花が一度に3本咲いたわけです。

下の写真、奥にあるのが真珠3姉妹

(ホワイトパール)の球根3つ、

手前がヒヤ子オリジナルと

増えた小さな球根2つです。

ヒヤシンスは自然分球しないと聞きましたが

どうしたことか。

ちゃっかりクローンを2つも作っていました。

びっくりしたなーもう。

 

読んだところによると、掘り上げた球根は

日陰の風通しの良いところで干して保存、とのこと。

裏の窓にぶら下げることにしました。

ここは風の通り道、ゆらゆら揺れて

揺り籠のようですから良く眠れるでしょう。

 

秋になったら6球を地植えにしようと思います。

ヒヤ子クローン1と2も独立して

立派に育つことを期待します。

おやすみ娘たち。

 

 

Atelier LAPIS(アトリエ ラピス)の様子から 2018年5月 5月21日

 

NAKさんの初・古典技法額縁が完成しました。

 

2017年の初夏にご入会、そして隔週で

地道な作業をつづけ

時には宿題でメノウ磨きをこなし、

さらには箔盤作りをしてみたり、

はたまたイタリア旅行にお出かけして

本場の額縁をじっくりご覧になったりしつつ

完成にたどり着きました。

 

はじめての作業ばかりでびっくり

恐々の開始でしたが、最後の頃にはもう

筆さばきもメノウ磨きもすっかり慣れて

わたしも安心して見守ることができました。

 

おこがましい発言ではありますが、

ひたむきに作業をつづける生徒さん方、

こうして「人の成長」を目の当たりにするのは

わたしにとってとても大切なことです。

自分も努力を続ければ成長できるのだ、と

励まされる気持ちです。

 

NAKさん、ピンクと金の可愛い額縁の完成

おめでとうございます!

次はぜひご自作の箔盤を使って

金箔作業をいたしましょう!

 

 

楽しい仕事 5月18日

 

額縁修復の仕事

失われた装飾を復元して

正面から斜めからさまざま見て

あるいは自然光や蛍光灯、薄暗い光で見て

オリジナル部分と見分けが難しくなった時

ニヤッとしてひとり悦に入り

この仕事が好きだなぁとしみじみ思うのです。

しあわせなわたし。

 

 

頼むことが出来るようになったら 5月16日

 

わたしは幼い頃からひとりで催し物に参加したり、

友達と遊ぶけれど、ひとり遊びも好きで飽きないという

「ひとりが基本」の性格で、今もあまり変わりません。

ですのでKANESEIも基本的に、お客様との打合せ、

デザイン、木地作りから完成、納品まで

ほぼひとりで行っています。

もちろん材料や既成の竿を購入はしますけれども。

 

ですがここ数年で、他の方の技術をお借りして

わたしのデザインした木地を作って頂く

「発注」という機会が増えてきました。

KANESEIが受注する額縁の内容や

数が向上してきた、とも言えるでしょうか。

 

なぜかずっと思い込んでいた

「自分の持つ技術と既存の材料で完成させられるだけの

仕事しかできないんだ、自分でやらないと

いけない義務と不安」という考えから解放されて、

「この額縁を完成させるのに必要な技術と材料が

わたしに無いなら、できる人に仕事としてお願いすればいい。

そうすれば作ることができる」を受け入れました。

我ながら遅すぎる気づきでしたが。

 

受け入れることで身心がとても楽になりました。

 

 

わたしの仕事、オーダーメイド額縁のご注文を頂いて作る、

という仕事も、お客様からみてみれば

「自分の思ったような額縁が欲しいから、

作る人に注文して(頼んで)手に入れる」のですから、

頼む、頼まれる関係がずっと前から身近にあったのでした。

互助、ギブ&テイク。

人間が生きる上の基本なのでした。

 

 

額縁の作り方 18 彫刻木地に金箔を置く 5月14日

 

今回の木地は、金と黒で装飾します。

前回17で迷いながらもボーロを塗り分けました。

今日は彫刻木地に箔を水押ししましょう。

 

凹凸に箔を置くって、面倒です。

順番としては、高いところ凸から

低いところ凹に箔を置いていきます。

つまり水が流れる順番です。

この額縁は外側寸法が16センチ程度です。

金箔はおおよそ2cm角くらい、小さめにカットしました。

 

凹凸の箔水押しのコツとしては、

水を塗る場所を見極めるのが大切。

凹の谷底まで箔を入れるためには

凸に水が付いていると、そこで箔が

ひっかかって奥まで入りません。

Vの字の中に入れるなら、Vの片面だけに

水を塗って箔を差し込む必要があります。

片面ずつ箔を置いてもよいし、

上手になれば片面に水を塗って、大きな箔を入れて

横から水を垂らしこんで反対側も箔を付ける、

なんてこともします。

 

むむう、文章で説明するのも難しい。

「何が何やらよく分からん」説明ですね。

百聞は一見にしかず、そして

百見は一経験にしかず、と言えましょう・・・。

箔の技術についてご興味のある方は

古典技法額縁制作の教室 Atelier LAPIS

どうぞお越しください。

 

 

新聞紙を使いますか 5月11日

 

昨年12月に、思うことを思うままに

ブログに書いていこうと決めましたので

以前なら「こんなことをお話しても

仕方があるまい」と思っていたような

ちょっとしたことも書くようにしています。

このブログのタイトル diario ディアリオは

イタリア語で「日記」です。

わたしのつぶやきにどうぞお付き合いください。

 

前置きが長くなりましたが

先日ふと思いました。

新聞紙を活用するのは日本独特のことなのか?

それも日本の古い人間だけなのか?

 

わたしは額縁制作の作業中もLAPISでも

作業台の汚れ防止にしょっちゅう新聞紙をしきます。

粉も絵具も油も糊も、すべて受け止めてくれて

作業後には惜しげなく丸めて捨てられる。

なんて便利な紙なのでしょう。

 

でも、SNSで海外の作家や工房の様子を見ても

壁のマスキングに貼っているのを1度だけ、

新聞紙をしいて作業しているのを見たことは・・・

思い出せる限りありません。

わたしの作業風景(新聞紙をしいた作業台で

嬉々としている)の写真をSNSで見て下さった

海外の方々、一体どう思っているかと考えたら

なんとも言えない気分です。

でもやっぱり、新聞紙は便利ですからね、

これからも使い続けると思います。

 

なんでもかんでも新聞紙で包んで

きっちりと仕舞い込んでしまって

結局どこに何があるのかわからない

祖母の納戸を思い出しました。

新聞紙って昭和なイメージ。

 

 

たけのこときのこの問題。 5月09日

 

もの心ついた時からずっと

「たけのこの里」が好きでした。

いいえ、いまも好きです。

 

先日「きのこの山」をひと箱いただいて

しばらく手を付けずに眺めていたのですが

おおげさに意を決して食べてみたところ

なんと。

「たけのこの里」より軽くておいしいのでは?

あれ、おかしいな、こんなはずじゃなかったのに。

食の好みは体調や状況によって変わりますけれど

この「たけのこの里」から「きのこの山」への

自分の変わり様は内心小さくない驚きでした。

これはもしや・・・年齢によるものなのでは・・・。

 

大なり小なりこうした変化は

日々起きているのでしょう。

気づくきっかけがお菓子だっただけで。

 

つぎに買い物に行ったとき、どちらを買うか。

たのしい迷いが増えました。

 

 

額縁の作り方 17 塗るべき塗らないべきか、それが問題だ。 5月07日

 

石膏を磨き終えた彫刻木地に

ボーロという赤褐色の箔の下地剤を塗ります。

今回は金箔と黒色の組み合わせに

することに決めました。

箔を置く部分にだけボーロを塗ります。

 

いつも考えるのですけれど、

こうして箔と色と組み合わせる場合、

ボーロも塗り分けるべきか、それとも

色を塗る部分もすべてボーロを塗ってしまうか。

塗り分けるより、全面塗ったほうが

ずっと楽で時短ですから。

きっと、全面ボーロ塗りして、

必要な部分にだけ箔を置いて、

はみ出した箔もボーロも色で塗りつぶしてしまえば

それはそれで大丈夫なのだとは思うのです。

特に今回のように黒色の予定の場合など。

 

だけど、ううーむ・・・。

後の工程や仕上がりを考えて、やはり。

結局いつも、ボーロは必要なところにだけ

塗るようにしています。

だけど、ううーむ・・・。

全面塗っちゃっても大丈夫な気がしないでもない。

悩むなら実験すれば良いのですけれど!

 

 

10年ずっと守られて 5月04日

 

KANESEIの福の神様であるモッコウバラ、

今年は元気に沢山の花を付けてくれました。

いつも見ごろを迎える連休ですが、

桜同様にモッコウバラも今年は開花が早くて

そろそろ花の終わりを迎えています。

写真は今年4月の19日に撮ったものです。


わたしが「モッコウバラは福の神様」と

お話しているのは、毎年この時期は

ありがたいことに作業部屋にこもって

制作に励んでいることが多いから。

不思議な、としか言いようのないタイミングで

額縁人生をステップアップするような

プロジェクトを頂戴しています。

 

ずっと休み続けているインターネットからの

ご注文受付も、はやく再開したいと思いつつ

今年もドタバタと花の時期が過ぎていきます。

お待ちくださっている方に申し訳なく思っております。


わたしの作業部屋の窓辺に、日除けになるよう

母が黄色い八重咲のモッコウバラを植えてくれて、

花が美しく咲くようになってから10年。

モッコウバラの神様に守られ導かれた

10年を思い返しています。

 

 

Black&Gold 普遍の組み合わせ 5月02日

 

先日から「額縁の作り方」で

ご覧いただいております額縁が

一足早く完成いたしましたので

ご紹介させてください。


15世紀末から16世紀初頭に

イタリアのボローニャで作られた

額縁をモデルにしました。

オリジナルは平らな箱型額縁で

全面金箔、刻印打ちが施されていますが

わたしは外に低くなる形(外流れ)の

アユース木地を彫り、純金箔と黒の

ツートンカラーに仕上げてみました。

 

外側の寸法が225×210mmと小さいのですが

予想以上にコッテリハデハデになりました。

一歩間違えると下品になってしまう

難しい色の組み合わせですが、今回は

なんとかセーフとしてくださいませ。

 

金色と黒色。

様々な場所で文化が生まれて以来ずっと、

人を引き付ける普遍な色の組み合わせ

なのだろうと思っています。

 

「額縁の作り方」ではひきつづき

この額縁の制作過程をご紹介いたします。

 

「works」内「classical」にこちらの額縁をアップいたしました。

どうぞご覧下さい。