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額縁の年齢詐称 9月28日

 

2010年に初めて作ったデザインの額縁に

「bianca-1」があります。

bianca とはイタリア語で白という意味でして

ご覧の通り白い額縁、角に模様を

パスティリアと線刻で入れてあります。

柔らかい雰囲気の額縁でございます。

 

この額縁は古色が付けてあり

アンティーク風に仕上げています。

古色付けには、わたしはフィレンツェの額縁師匠

パオラ&マッシモ夫妻から教わった秘伝レシピの

茶色いワックスを調合していますが

そのワックスを塗る前は、まさに純白です。

 

▲内側の縁(端先)に純金箔を貼り磨き、パスティリアの調整が済みました。

この白色はボローニャ石膏の白色、優しい白です。

 

▲そしてチタニウムホワイトのアクリルグアッシュを塗ったところ。

まっっっ白です。

真新しい制服を着た新入生のように緊張感あふれる。

 

▲そしてワックスで汚し加工をしたところ。

 

絵の具を塗ったばかりの真っ白の時は

なんだか変に光ってのっぺりしていましたが

ワックスを付けて乾拭きをくり返しますと

凹みは暗く、凸はほんのり輝いて

古い象牙細工のような趣になります。

 

この汚し加工はワックスの濃度や

拭き上げるタイミングなどで

もっと軽く、もっと濃く調整できます。

今回はなかなか濃く汚しています。

 

この額縁には古い裸婦デッサンが入ります。

褐色の紙に早い筆致で表現された

強いまなざしの女性が印象的な作品です。

長い時間を生き抜いてきた作品を納め守るため

額縁も「力強く長く生きてきた」を擬態しています・・・。

でも額縁裏側を見れば実年齢はすぐにばれます。

 

年齢詐称額縁。いかがでしょうか。

 

 

 

ギルさま 9月25日

 

ルネッサンス期にフィレンツェを中心に

活躍した画家、ドメニコ・ギルランダイオの作品

「ジョヴァンナ・トルナブオーニの肖像」の

テンペラ画模写をはじめました。

オリジナル作品は腰から上の姿ですが

わたしは顔だけアップで。

 

▲完成までの道のりはまだまだ長い。

 

ギルランダイオの作品は、フィレンツェの教会や美術館で

またローマのヴァチカン美術館でも

観ることができますが、

いわゆる「すごい人気作家」ではありません。

 

今回模写に使っている画集はフィレンツェの

美術専門古書店で2018年に買いました。

その滞在時、他の古書店でギルランダイオの

画集が見つからなかったのですが

この店主いわく「そうね、ギルランダイオって

そんなに有名じゃないから。」と。

 

わたしがええっと言うと、申し訳なさそうに

「ほら、ボッティチェリやダ・ヴィンチのように

人気がある訳ではないでしょ。」と言いつつ

この本を探し出してくれたのでした。

 

言われてみればそうかも。

かの有名なヴァザーリ著「芸術家列伝」にも

書かれていません。

ギルランダイオの作品を見ていて感じるのは

穏やかだけどきちんとしている。

レオナルド・ダ・ヴィンチのような深遠さや謎、

ボッティチェリのような陰りのある優美さ、

フラ・アンジェリコのような静謐な明るさ・・・といった

「大きな特徴」は少ないかもしれません。

 

だけど、美しく正確に並んだ筆跡

(クリヴェッリのような神経質な硬さは無くて)

モデルとなった老若男女誰にでも

同じ穏やかな眼差しを向けている、

と言った雰囲気です。

 

変な言い方ですが「きちんとした大人」な

人柄だったのではないかと想像できるような。

絵から不機嫌さ、憂鬱さを感じさせないというか。

穏やかで真摯な人柄、でもそこはかとなく

「俺もやってやるぞ」「俺だってすごいんだぜ」感も

きちんと出ている。

・・・わたしの語彙力が足りなくてうまく説明できない。

 

▲ギルランダイオの自信溢れる自画像。46歳で亡くなっている。

 

好きな画家をつい「フラちゃん(フラ・アンジェリコ)」

「ボッちゃん(ボッティチェリ)」などと

親しみを込めて呼んでしまうのですが、

ギルランダイオの画集を見れば見るほど

「ギルちゃん」ではなくて「ギル様」になってきました。

 

▲髪は難敵・・・つづきは明日。

 

いま模写している原画はマドリードにあるので

実物を見るのは難しいけれど、

またフィレンツェに行ったときには

サンタ・マリア・ノヴェッラ教会で

彼のフレスコ画を見て、

墓所にご挨拶しようと思います。

 

 

何て呼んだら良いですか in English 9月21日

 

インスタグラムにて、自作の小箱や額縁の写真

(たまに謎のご飯写真)と一言コメントを出しています。

ブログは文章メインで日本の方々に見て頂いていますが

インスタは海外の方の方が多いかも?といった感じです。

 

▲先日作った小箱。他にやること山積みなのに、逃避制作。

 

インスタでは、まず拙いイタリア語、それから日本語

そして変な英語と3か国語でコメントを書いています。

(イタリア語、英語は間違いだらけだけど、

書かないよりずっと良いだろうよ!と開き直っております・・・!)

そうすると、インスタだけでやり取りする知り合いが出来ました。

アメリカ、スウェーデン、ドイツとか・・・

もちろん日本とイタリアにも。

 

▲パスティリア(石膏盛上げ)が乾いたら線刻。鹿エンブレム風・・・

 

今まで英語で小箱のことを small box

または casquette と書いていました。

今年2月のフィレンツェ滞在で「小箱は cofanetto とも呼ぶ」と知ってから

英語でも素敵な呼び名があるかしら、と思って調べましたところ

キャスケットcasquette にたどり着いたのでした。

 

▲赤ボーロに純金箔、メノウで磨いて金ぴかに。

放置していた豆小箱もついでに。

 

先日、あらためてふと

「小箱って英語で何て書けば最適だろうか」と思いました。

だいたい、キャスケットという言葉で小箱を指した時

英語を母国語とする方々にどんなイメージを

持っていただいているのか、気になり始めました。

 

▲金箔を磨り出して、ワックスとパウダーで古色付け。たのしい逃避・・・

 

インスタでメッセージのやり取りをしているアメリカのお二人に

「small box と little box と casquette、どの呼び名が良いと思う?」

とお尋ねしました。

そのお答えは、一人の女性(30代くらい)は

「small box が良いと思う!」とのこと。

ふむふむ。

 

もう一人の男性(多分40代)からは

「それは良い質問! small box が一番良いと思うよ。

というのも、casquette は小箱を指すには一般的ではないし

一部の人は棺を指すときにも使う言葉だからね、

イメージを考えるとお勧めしない。」でした。

きっとこの方、わたしが以前に使っていた「casuquette」の単語を見て

気になっておられたのかもしれません。

キャスケットという単語が棺も指すことは

わたしも読んではいたのですけれど、やっぱりそうなんだ

そりゃそうか・・・納得でした。

 

▲さぁ、完成しましたよ。諦めて仕事に戻りなさい、わたし・・・

 

いやはや、お二人に尋ねて良かったです!

腑に落ちました。

単語ひとつでも微妙なニュアンスは違います。

イメージは大切ですからね・・・。

 

と言う訳で、本日からわたしの小箱は

small box一択 で一件落着!でございます。

 

 

オウィディウスはかく詠いけり 9月18日

 

文字装飾でラテン語を入れましたシリーズ。

オウィディウス(Publius Ovidius Naso 前43年 3月20日

– 後17年または18年)の詩を引用しています。

 

 

“artibus ingenuis quaesita est gloria multis”

高貴なる藝術によりて多くの人々に光榮は獲得せられたり。

 

 

例によって、ラテン語文章の内容には

重きを置かず、文字装飾として。

オウィディウスに敬意を払いつつ!

 

 

蓋の模様とラテン語文字はマイクロ点々

(細いメノウ棒で極小の点を打つ)で入れていますので

光の角度で輝きます。

文字の形の影響かゴシック・リバイバル風に仕上がりました。

いかがでしょうか。

 

秋の「秘密の小箱」展に出品いたします。

11月9日から19日まで、箱義桐箱店谷中店にて。

ご高覧頂けますと幸いです。

 

箱外側寸法:60×52×33mm

木地にボローニャ石膏、赤色ボーロに純金箔水押し、メノウ磨き

点打ちで模様装飾、アクリルグアッシュで彩色

ワックスによる古色仕上げ。

 

ああもう、倒れる3秒前 9月14日

 

ご注文いただいた額縁を作っているとき

何が一番怖いかって、サイズ間違いです。

 

材木を切った時点で間違いに気づけばまだ良い方で

(材はもったいないけれど、他でも使える場合があるので)

ある時など金箔作業も終わって完成間近

仕上げの時に気づいたこともあります・・・。

 

納品後に発覚!という最悪パターンは

まだ無いのが不幸中の幸いですが

それもいつかやってしまう恐怖がいつもあります。

 

いや、それにしても気づいた時のショックと言ったらありません。

納期が間に合うか、材料が足りるかなど

もう本当に心臓がぎゅっとなる。

そして大変にがっかりします。

 

自分一人でやっておりますので

失敗のすべては自分のミスです。

慰めようも無いのがまたトホホなところ。

 

▲火球?! いえいえ、自衛隊の大きなヘリコプターでした。

 

こんなことを書き連ねましたのも

いま額縁内部に簡単な細工加工をして

サイズ調整を入れる額縁を作っておりまして、

塗装済み、あとは仕上げの段階なのですが

なんだかちょっと心配になってサイズのメモを見たのです。

 

そうしたら額縁が1センチ大きいじゃないの!

ちょ、ちょ、ちょっと待って・・・

血の気が引いて、もう一度きちんと確認しましたら大丈夫

これで合っているのでした。

最初のサイズはご相談の最中のメモでした。いやはや。

 

ああ、また寿命がすこし縮みました。倒れそう。

まだ動悸がしています。

 

▲「天高く馬肥ゆる秋」は間近

 

わたしが誰かと一緒に工房経営や制作をしない

したくない心理はこれなのでしょう。

自分がミスがほかの人の迷惑になる、ということ。

こう書くとまるでわたしが謙虚な人間のようですが

そうではなくて

いい年齢になっても乗り越えられていない

小心者のプライドと言ったところです。

 

大勢で出来る仕事の規模や達成感などと

自分一人でする小さな仕事と安心感、

どっちも善し悪しがあって、

結局のところ向き不向き

好みなのだろうなぁと思っています。

 

なににせよ、サイズ確認は気を付けよう。

押忍。

 

カードうきうき 9月11日

 

8月の半ばのいちばん暑いころ

「禅の友」編集のMさんと

フォトグラファーの浅野カズヤさんが

我が家へお越しくださり

額縁と小箱の撮影をして頂きました。

 

曹洞宗の月間冊子「禅の友」の2023年

一年間の表紙にKANESEIの額縁を使っていただくのも

あと3回になりました。早いものです。

 

撮影目的のメインはもちろん冊子用の写真なのですが

編集Mさんのご厚意で、浅野さんが撮ってくださった写真を

わたし個人でも使うご許可をいただきました。

 

そんな訳で!

嬉々としてKANESEIのショップカードを一新いたしました。

 

▲実物カードは色がもっと綺麗なのだけど・・・

 

なにせ写真が素敵すぎて1枚に決められず

2種類のカードを作りました。

裏面にはインスタグラムやネットショップの

QRコードを入れています。

 

以前は自分で撮った写真を市販の名刺用の紙に

プリンターでガタゴトを印刷していました。

紙はペラペラだし印刷のキメも荒くて

おまけにカードの周囲は切り取り線の

ミシン目跡でデコボコ・・・という

手作り感溢れすぎのカードでした。

 

今回はプロによる写真で印刷も外注!

(レイアウトは自分ですけれど)

これで自信の持てるカードが出来ました。

うれしい。

 

 

プロの手をたくさん通って完成したカードを見ると

「自分で作った小箱」のカードなのに

ちょっと遠く感じるというか

まだ他人事に見えるというか。

これから慣れるのでしょうね。

 

張り切りすぎて100枚ずつ

合計200枚も作ってしまいました。

まずはネットショップでお買い上げくださった方へ

そして11月の箱義桐箱店谷中店での展示会

「秘密の小箱展」で、じゃんじゃんお配りしようと思います!

 

浅野カズヤさん作品

 

手抜きはたまに 9月07日

 

先日、美容院に行きました。

なんと8か月ぶりでした。

以前はもう少し自分のお手入れも色々していたのですが

頻度や使うお金も減る一方でした。

髪を長くしているとどうにかなってしまうので

つい美容院も後回しにしておりましたけれど

帰り道の爽快さと家族の笑顔で

手抜きをしていたことに気づいたのでした。

 

要るものと要らないものを選別するのが苦手で

整理整頓はわたしに欠ける才能である!

・・・と自他ともに認めておりますが

コロナ禍で否応なくシンプルになった面もあります。

人間関係ですとか、恐怖心ですとか。

まぁいいや、まぁ仕方がない、

なるようになるし、なるようにしかならない。

と思えるようになったのは、この2~3年のことです。

年齢的な事もあるかもしれませんけれど。

 

 

でもね、シンプルと手抜きは違うのだよ!

・・・いやぁ、今更ながらですね。

 

心身も生活もシンプルに。

でも手抜きはあんまりしないで(たまにはあり)

余裕をもって丁寧に。

これが出来れば良いな、と思います。

年末にはだいぶ早いけれど

来年の抱負にしちゃおうかな?

いや、今から目指せば良いのですよね。ハハハ。

 

 

考えながら生きる 9月04日

 

ででーん

 

 

ひょっこり

 

 

「禅の友」9月号です。

立秋とお盆を過ぎて日もだいぶ短くなって

「禅の友」表紙背景もすこし深い色になりました。

 

この額縁は「サンソヴィーノ」スタイルと呼ばれるデザインで

渦巻きとウロコが特徴です。

例によって摸刻でして、オリジナルは1500年代後半に

北イタリアで作られたものです。

 

日本人の「死」に一番近い宗教でもある仏教

(もちろん違う考えの方々もいらっしゃいます。)

この「禅の友」でも、自分や家族の死を迎えるにあたっての気持ち

ひとりで物事を考え整理する時間の大切さなど

毎号に死生観についてのコラムや仏教の考え方などが載っています。

 

「教え」ではなくて、「私はこう思います。あなたはどう?」

と問いかけられているような文章です。

毎月「禅の友」編集部から届けていただく度に

自分との対話の機会になっています。

9月はお彼岸もありますね。

今月もまた、気持ちの整理をしてみようと思います。

 

 

それにしてもまぁ、派手な額縁でございますね!

曹洞宗と古典技法額縁、このギャップを

楽しんでいただければ嬉しいです。

 

「禅の友」