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Atelier LAPIS(アトリエ ラピス)の様子から 2017年9月№2 9月28日

 

これぞ渾身の作、というHAさんの額縁が完成しました。

2016年4月から作りはじめた記録があります。

何年も前にご自身で彫刻、木地組み、石膏塗りまで

終わらせてからずっと手つかずだった額縁の制作を再開。

まずは石膏を磨きます。

彫刻はシンプルながらも繊細なデザインなので

細かいところも慎重に磨いていきます。

5月、デザインを練ります。

今回は全面に金箔の水押し、様々なサイズの刻印で

植物模様を入れることにして、ウィリアム・モリスの

「いちご泥棒」柄から少しずつ取り入れました。

デザイン画を石膏地に写し、線刻を入れてから

赤色ボーロを塗って、9月、いよいよ箔置きです。

11月、小さな繕いが根気よく続きました。

箔での繕いはもちろん、彫刻の奥などには金粉も使って。

 

年が明けて2月、刻印打ちが始まりました。

ここからはひたすらにコツコツと打ち続けます。

刻印は大小5種類を使って葉や花、蔦模様を繊細に表現します。

 

6月、刻印打ちが終わりましたよ。

なんて美しいのでしょう。

 

7月、さて、模様が美しく入ると彫刻部分の

繕い不足が気になりだして・・・更に繕い。

そして側面には茶色のアクリル絵具を塗りました。

 

8月になって、さぁ最後の古色付けです。

傷をつけて、磨り出しをして、ワックスで汚して・・・

完成しました。

ルネッサンス時代のお姫様の肖像画が納まりそうです。

あるいはラファエル前派の作品でしょうか。

 

とてもお忙しい中も必ずアトリエには来て下さり

ご自分の世界を額縁に表現してくださったHAさん、

ありがとうございました。

この素敵な額縁を眺めながら乾杯してください!

 

 

日本伝統工芸展 わたしならどうする? 9月25日

 

毎年お彼岸の恒例、お墓参りの後に寄る

「日本伝統工芸展」へ今年も行ってまいりました。


NHKの「日曜美術館」の解説を聞いてから見るか

見てから聞くか・・・

以前は聞いてから見たいと思っていましたが

今年は偶然ですが聞く前に見ることになりました。

まっさらな状態で先入観‐‐こんな人が作っているのか、とか

制作過程云々‐‐を持たずに見た後に自分の感想とともに

解説を聞いたほうが、より心に残るのでした。


 

いつもながらの勝手な想像ですけれど、

もしわたしがこうした伝統を受け継ぐ立場だったら

どうしただろう。

物作りが好きだから、嬉々として取り組む?

プレッシャーに押しつぶされて止めてしまう?

西洋美術方面に行きたくて葛藤する?

 

まったく別の世界で生きてきたけれど

どうしても伝統工芸制作の道に進みたいがために

様々なことを断ち切って打ち込む人もいるでしょう。

 

「やりたいこと」と「やるべきこと」が同じ

という幸せな作家は数少ないのだろうし、

そこにたどり着くまで沢山の苦労があるのだろうなぁ・・・

と、ぼんやりと考えていました。

 

 

羆嵐(くまあらし) 吉村昭 9月21日

 

北海道の奥地、巨大な羆(ひぐま)に襲われた開拓村の人々と

羆を倒す狩人の話。 実話を元になっているとか。

お酒の席で話題に上がり、興味を持った本です。

その席には北海道の旭川と道東港町出身の方 お二人がいて、

冬の厳しさ、地吹雪の怖さ --生と死の境--を聞きました。

 

この「羆嵐」の何が恐ろしいって 寒さの表現

羆の食べたものの跡 (村人の遺体)の様子

人間の心の動きと表情、 暗闇で見えないヒグマの気配など

想像を掻き立てる描写です。

映像で観るより何倍も背筋がゾワッとしました。

お二人から聞いた厳冬の話、そしてなぜか

映画「エクソシスト」の白い息を 思い出しました。

寒さはそれだけで恐怖を煽ります。

 

残暑の時期に真冬の恐怖の描写を読んで

ホラーとは違う恐ろしさを味わいました。

わたし一人では出会わないような本も

紹介されて読むと未知の世界の入り口に 立てて

面白い読書体験が出来ました。

 

 

復活した花飾り 9月18日

 

先月にご覧いただいていた水押し金箔の

額縁修復が完了し、先日お引渡ししました。

KANESEIに届いた時はあまりに脆くて

持ち上げる度にパラパラと

石膏が剥がれ落ちてしまう程だった額縁ちゃん。

花飾りの彫刻は、額縁木枠と接する部分の花弁が欠け落ち

木枠も痛んでいます。

遥々と遠く海の向こうから東京に来て素敵なお宅に納まったら

事故で落下して壊れてしまった・・・。

落下の衝撃と経年劣化による石膏の亀裂も深刻でした。

この額縁ちゃん、どんな思いでいたことやら。

さぞかし悲しかったに違いありません。

 

と、つい額縁に感情移入してしまいますが

それはさておき。

下の写真は修復前の様子です。

白く見えているのは表層が剥がれ落ちて石膏地が見えている状態。

花弁も割れて失われています。

 

そして修復後。

可能な限り、ひび割れの剥落止めをしてから

ボローニャ石膏で繕い、赤ボーロを塗って箔を置きました。

水押しの金箔の良いところは、古い箔の横に新しい箔を置いても

メノウ磨きで馴染んでしまうことです。

再現した花弁の形は、全体の雰囲気から

そして対にある左の花弁を参考にわたしの想像で作りました。

違和感なく馴染んでくれたでしょうか。

オリジナルもこんな感じであったなら良いのですが。

 

この額縁、他の部分も大きく壊れていて手間取りましたが

どうにか丈夫に美しく復活できたと思います。

 

経年変化した色や艶は、それ自体が美しさのひとつです。

この美しさを保ったまま修復することを心がけています。

わたしが修復する前にも、なんども修理修復の手が

入った形跡がありました。

それぞれの職人が試行錯誤して、どうにかこの額縁を

元気な姿にしてやりたい、との気持ちを感じます。

これからもまた、持ち主の方と末永く

幸せに暮らしてほしいと願ってやみません。

 

 

お父さん、これ買って 9月14日

 

アンティークの小さなカメオブローチ。

銀で縁どりされていてペンダントにもなります。

カメオによくある女性の肖像ではない、

植物の模様に惹かれました。

 

誕生日祝いとして父に買ってもらいました。

未だに父に日々お世話になっていますけれど

最後に「物をねだった」のは、ずいぶん前のこと。

なんだか童心にかえったような嬉し恥ずかし、でした。

お父さん、ありがとうございます。

 

 

逢えなかった姫君 レオナルド×ミケランジェロ展 9月11日

 

おととい、庭の銀木犀が咲き始めました。

朝、窓を開けるととても良い香り。

秋のはじまりです。

 

三菱一号館美術館で開催されている展覧会

「レオナルド×ミケランジェロ展」に行きました。

なにせ二人の作品は繰り返し本で見ていますので

すでに見慣れた・・・と言っては大げさですけれど

慣れ親しんだ気持ちがあります。

 

それでもやはり、当然ながら

実物の線、陰影、ハイライト、すべてが想像以上に美しく

オーラと言いますか迫力が迫ってくるのでした。

 

レオナルドのデッサン「少女の頭部」

大きいと思ってたのに、はがきサイズ程度で小さい!

これまた驚きました。

ミケランジェロのデッサンも、太い線の力強い作品

という印象が強かったのですが、細く優美な線の作品もあって

内心大興奮しながら見ていました。

近づき過ぎて係の方に注意されてしまい、お恥ずかしい。

 

唯一残念だったのがレオナルドの「美しき姫君」の出品が

取りやめになったとかで見ることが叶いませんでした。

数年前に「真筆であろう」とニュースになった作品で

とても楽しみにしていたのですけれど・・・

まだ真筆の確定(?)がされていない等、色々あるのでしょう。

 

面白かったのは、デッサンの作品がかなり分厚い

箱のような額縁に納められていたことです。

おそらく今回の展覧会のために作られていて

オリジナルの額縁を日本で更に箱型の額縁に納めて

紫外線カットはもちろん湿度も保てる仕掛けをして

大切に大切に展示されたのでしょう。

内部がどうなっているのかとても気になりました。

 

レオナルドもミケランジェロも

天才として生まれた上に、たいへんな努力もしたはずです。

そんなイタリア人ふたりの作品に触れて

すこし心がピリッとしつつ、ウットリした一日でした。

9月24日までの開催です。ぜひお出かけください。

三菱一号館美術館

「レオナルド×ミケランジェロ展」

2017年6月17日(土)~9月24日(日)

10:00~18:00 月曜休館(但し、祝日は開館)

岐阜市歴史博物館で10月より開催

 

 

大きくなって、さらに装飾的に 9月07日

 

昨年暮にいただいたご注文の額縁が、8月に完成しました。

長らくお時間を頂戴してしまいました。

有名な画家であられたお祖父さまの最後の作品を納める額縁とのこと。

デザインはなんどかメールでご相談のやりとりをして

木地サンプル写真やスケッチをご覧いただいているうちに

「思い描いていたものにとても近いです」と仰っていただける

デザインにたどり着くことができました。

venezia-1 をベースにしていますが、だいぶ大きくて木枠の幅は

倍以上ある66mm、さらに線刻を足しました。

全面を純金箔のメノウ磨き、線刻と盛り上げで豪華です。

アンティーク仕上げの加工は強くなく、とのご希望で

軽い磨り出しと、ワックスはほんの少しだけ使いました。

 

ご家族の大切な作品のための額縁にKANESEIを選んでくださり

大変うれしく存じます。

ありがとうございました。

 

「works」内「classical」にこちらの額縁をアップいたしました。

どうぞご覧下さい。

 

 

Atelier LAPIS(アトリエ ラピス)の様子から 2017年9月 9月04日

 

アクリルで絵を描く作家でもある

SWさんの 純金箔水押しの古典技法額縁が完成しました。

制作開始は2016年の10月から。

木地に石膏を塗るところから始めました。

今回のメインは型取りのオーナメント作りです。

フィレンツェ製の木製オーナメントから

シリコン粘土で型取りし、紙粘土で抜きました。

細部まできれいに取ることができました。

 

磨いたボローニャ石膏地に取り付けて

赤色ボーロ、純金箔の水押しをして・・・

ひたすら模様の周りに刻印を打ちました。

いかに刻印点を同じ間隔、同じ強さで打つかがポイント。

難しかったようですが、最後にきっちり調整しました。

今回は金箔をあまり汚さず輝きを保ちたいとのこと

作った傷にだけワックスを擦り込んで完成しました。

SWさんらしいおおらかで華やかな額縁です。

根気よく作って下さってありがとうございました!