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錬金術師の名前 2月29日

 

ホカホカマリア様?」でお話したイタリア語の単語

「Bagnomaria」(湯煎)のつづき。

気になって追及しましたが、ご興味あればぜひ。

 

湯煎は古典技法絵画だけではなく

いちばん使われるのはお料理の分野でしょうか。

チョコレートを溶かしたり卵を少しずつ加熱したり。

イタリアに料理修行に来られる方も

沢山いらっしゃいますので、きっとこの

「Bagnomaria」に「はてな❔」と思われた方は

沢山いらっしゃるのではないかと期待しております。

 

さて、わたしの手持ちの伊伊辞書をまず引いてみます。

 

▲イタリア語によるイタリア語の辞書。Novitaとあるが古い・・・

 

 

「容器に入れたものを熱湯に浸す。加熱する。」ですって。

いや、そりゃ分かっておるのじゃよ・・・!

語源が載っているかと思ったのだけど。

 

次なる手段、イタリア人に聞く。

そうしましたところ、こんなスクショが送られてきて

「わたしも知らなかった」ですって。

まぁこんなこといちいち気にするのは

我ながら煩いと思いますからね、ハハハ。

 

 

「この言葉の元はおそらく、モーセの姉で錬金術師の

Myriam (ミリアム;ヘブライ語のマリア)に由来しており、

この調理法を初めて使ったのがミリアムとされている。

”マリアのお風呂”と呼ばれる調理法。」

つまるところ、モーセの姉が

「わたしが開発したこの方法、わたしの名前を付けるべし!」

だったのかも?という伝説・・・へぇえええええええ!

Maria は聖母マリア様ではなくて、もっと古い

旧約聖書の時代のMaria (Myriam) だったのでした。

 

これにて一件落着!ついでに etimologia (語源、語源学)

という単語も知ることが出来て一石二鳥。

モーセの姉がミリアムであり、ラテン語でマリアになる。

これも初めて知ることが出来ました。

一石二鳥、いや四鳥で友人には感謝でございます。

 

モーセの姉ミリアム。

弟のモーセが十戒の石板を掲げている横で焚火に大鍋をかけて

何やら怪しい薬草や鉱物を湯煎でグツグツ・・・

「フフフ!これぞ新しい技法、わたしが発明したのよ!」

と呟いていたりして。

変な風景を想像しています。

 

 

 

ホカホカマリア様? 2月26日

 

イタリア語を少しご存じで

古典技法の経験がある方ならば

あるいはイタリア料理を勉強なさった方なら

きっとご存じのイタリア語単語

それは「bagnomaria」、湯煎という意味です。

 

古典技法で欠かせない石膏地はニカワ液に溶いてありますから

必ず湯煎で温めて液状にして(冷えるとゼリー状になる)使います。

 

▲右上のガラス瓶に石膏液が入っています。

普段は冷蔵庫に入れておいて、使う時に湯煎で温めています。

下に敷いた紙がびしょ濡れなのは、湯煎して瓶を拭かなかったから・・・。

 

キャンバスや板絵の下地、額縁にもKANESEI小箱にも

一番ベーシックな石膏下地、つまりニカワで溶いた石膏を

湯煎して塗ってあります。

 

▲パスティリア(石膏盛上げ装飾)も湯煎した石膏液で垂らし描き。

 

で、このイタリア語の湯煎という単語「bagomaria」

バーニョマリーアと発音しますが、バーニョはお風呂またはトイレ

マリアとは言わずと知れた聖母マリア様です。たぶん。

この単語を見るたびに湯船につかってホカホカしたマリア様とか

トイレに座ったマリア様とか(大変に失礼ながら!)

イラスト的な画像が頭に浮かんでしまう。

 

なぜ湯煎が bagnomaria という言葉になったのか

気になりだすと止まらない。

 

もしかしたらお風呂もトイレもマリア様も

全く関係ないところから来た単語だったり?

それもまた興味津々であります!

 

今度イタリア人に聞いてみよう・・・

 

 

忘れていない 2月22日

 

すっかり小箱制作ばっかりね

と思われているかもしれない・・・ですが

こちら額縁も忘れておりません。

 

 

隙間時間にガサゴソと制作。

1700年代イタリアの額縁風のデザインにしました。

外側には果物と葉。この果物のリース模様は

ぜひ一度作ってみたかったデザインなのです。

中央にはリボン巻き巻き、端先は・・・

これ何と呼ぶデザインでしょう

変形「lumb’s tongue」のような。

 

次はボローニャ石膏を塗り磨き、

ボーロを塗り金箔を貼ってメノウで磨いて、

ちょいと古色を付けたら完成です。

なぁに、あっという間ですよワハハ・・・ハ・・・

 

 

星ちがい 2月19日

 

シンプルな小箱・・・いや

KANESEI小箱としては、シンプルな小箱が出来ました。

 

 

こちらも星のような模様を入れてありますが

いつもの青ベースに金の星ではなくて

パスティリアで小さな点々をで集めて盛上げて

その周囲をマイクロ点々を打ってキラキラとさせてみました。

 

 

蓋の縁はひと回りぐるりとベルト状に一段高くして

格子のようなウロコのような模様が細かく入っています。

この写真だと暗くて見えませんが・・・

 

ちなみに箱の下の本は2023年フィレンツェ滞在時に

書店で立ち読みして、時代物だけどこれなら読めそう・・・

と買った小説です。1年経って結局まだ読んでいない!

表紙がギルランダイオの「ジョヴァンナ・トルナブオーニの肖像」

なのは偶然です。いや、無意識に惹かれたかもしれません。

 

 

ジョヴァンナのような貴族の娘さんが

この小箱をこっそり持っていたら

どんな風に使ってくれたかな、なんて。

 

いつか政略結婚することは貴族の家に生まれた運命

だけど、密かな恋人もいて、その人から贈られたという

2人のイニシャルが刻まれた指輪が入れられていたりしたら・・・?

 

なんちゃって。少女漫画の世界まっしぐら。

 

いつもと一味違う金の星、いかがでしょうか。

 

 

星いろいろ 2月15日

 

ウルトラマリンの青をベースに金の星を並べるデザインは、

それこそジォットのフレスコ画の頃から

(それ以前からかも)ある不朽のデザインでして、

わたしも小箱になんども繰り返し入れています。

 

今回は平たい正方形の箱に紋章風に入れてみました。

 

 

金の部分はすべて純金。

いつもの純金箔水押と、星模様と細い線模様は純金泥です。

 

 

この写真では分かりにくいのですけれど

やはり金泥で描くと絵の具の「金色」とは全く違うのです。

輝きが奥深く繊細といいましょうか。

描いていて楽しいのはもちろん金泥です。

 

 

中の布はグレーを選びました。

今あらためて見ると地味ですね。

 

 

斜光でみると筆跡がけっこうクッキリ見えます。

これはお好みですし程度もありますけれど

わたしは少々筆跡が残っているところに

ワックスで古色を付けた表情が好きです。

 

単調にならず、力強さや人肌が感じられる。ような。

 

いかがでしょうか。

 

 

信じるべきは手 2月12日

 

額縁の修理をしています。

 

作業部屋では天井の蛍光灯の明かりに加えて

手元のライトも使っています。

斜光ですと凹凸や傷がより見分けやすくなります。

欠けてしまった部分を再形成した時など

特に斜光でいろいろな角度から見る必要があるのです。

 

 

でも最終的な良し悪しを判断するのは

目視ではなくて触覚です。

目は疲れた夕方や気分(恥ずかしながら。)で

「まぁ良いんじゃないかな」と判断してしまうことがあるけれど

指先の感覚はぶれません。嘘が付けないというか。

 

ここで目の判断に流されてしまうか

もうひと我慢して手の判断に従うか

ここで完成度が決まるのです。

もうそれは残酷なほどに完成度が違うのです。

 

この壁を超える、つまり手の判断を受け入れるのには

結構しんどい時もあります。人間ですもの。

そんな時は手の判断を受け入れてから

つづきは翌朝に繰り越します。

そうすると気持ち新たに向き合うことが出来たりして。

 

今できることは先延ばしにするな

なんて言いますけれど、それはそれ

急がば回れとも言いますしね。

臨機応変に。そして着実に。

それを目指して精進しております・・・

 

 

どちらがお好み? 2月08日

 

以前に「『小箱の同じデザインは二度と作らない』というのはやめた」

つまり同じデザインを再度作ることを宣言(大げさ)しました。

今回の小箱も以前に作った模様を技法違いで作ったものです。

 

 

上の写真が新作。

石膏地に模様の輪郭を線彫りして箔を貼り磨き

模様の内側を点々打ちしました。

今回の点々はマイクロサイズではないので

よりクラシカルというかルネッサンス風味に

なったような気がしています。

 

ちなみに以前作った時はこの模様を

パスティリア(石膏盛上げ装飾)で入れました。

 

 

同じサイズの箱、同じ赤色ボーロに純金箔で

磨り出しのアンティーク仕上げですが

模様の凹凸の差で印象も違うものです。

 

 

パスティリアの方が華やかな印象。

 

 

点々打ち装飾は比較的スッキリ。

どちらがお好みですか?

 

わたしはですねぇ、わたしは・・・

その時の気分で変わります!

そんなもんです、ハハハ。

 

 

思い入れの有無と距離 2月05日

 

先日BGM代わりにテレビをつけていましたら

ぬいぐるみ作家の方のインタビューでした。

ひとつずつ違う手縫いのぬいぐるみは

個展でも即完売で、注文も数年待ちだとか。

 

その方のぬいぐるみ購入者は女性や子どもだけでなく

大人の男性のファンもいるそうで、

家に迎えたら家族のようにペットのように

大切にする方が多いそうです。

 

インタビュアーがその方に「自分で作ったぬいぐるみを

手放す(売る)のは辛くないか、思い入れはあるのか?」と聞いたところ

きっぱりと「思い入れはしないようにしています。」

と答えていらしたのが、とても印象に残っています。

 

 

わたしは小箱や額縁をまるで

自分の分身のような娘のような気持になって

それこそ思い入れ盛沢山でいるのですが、

そうではない作家は一体どんな心境で制作しているのだろう?

 

「あえて自分とぬにぐるみに一定の距離を取るようにしています。

名前も付けませんし、モノとして扱う。」

というようなことを仰っていました。

特にぬいぐるみなど顔があって気持ちを込めやすいものを作っていると

距離を保つのは自分のためにも必要かもしれませんね。

 

そしてぬいぐるみに名前を付けたり気持ちを込めるのは

購入してくださる方の特権であって、

その「余白」は作者が入っていく場所では無いのかも。

思い入れモリモリの品は、人によっては重くかんじるでしょうし。

 

 

「心を込めて作られた品」は、その品物への

愛情が豊かでリスペクトもあって、という感じですが

「思い入れのある品」って、執着とか

しぶしぶ手放すような暑苦しさも感じられる・・・

品物を作って売るからには「心を込めて」が

お客様も自分も気持ちが良いのだろうなぁ。

 

小箱・額縁とぬいぐるみ・・・

完成する「もの」は違うけれど、制作する気持ちや

「自作のもの」に対する葛藤は共通なものを感じました。

 

そうか、なるほど。

手放す前提の品とは心の距離を保つ。

偶然だったけれど、貴重なお話を聞くことが出来ました。

 

 

時間は不明だけど 2月01日

 

小箱についてお話するとき

「ひとつ作るのにどのくらい時間がかかるのですか」

というご質問は度々お受けします。

もちろんデザインやサイズにも寄るのですが

実は「ひとつだけ集中して作る」と言うことが無いので

ひとつ作る必要時間はわたしにも不明だったりして・・・。

 

下地作りはいくつかの小箱をまとめて作業します。

 

▲今回の下地作りは22個

 

ご注文の品があればまずそれを優先して、あとは

「なんとなくデザインのイメージが出来つつある」用の箱を選んでおきます。

そして下ニカワとボローニャ石膏塗りまで終えて

丸一日乾燥させて待機。

 

いつまで待機するかは、その箱の運命であります。

すぐにご指名がかかることもあれば

いつまでも待機しているサイズの小箱もあったりして。

 

デザインはず~~っと頭の中でこねくり回して

ようやく表層に上がって来たものを掬い上げて描き起こす感じです。

デザインが決まれば、ようやく石膏磨き、デザイン下描き

箔や彩色、乾くのを待って箔のメノウ磨き

仕上げ塗装、内側の布貼りで完成を迎えます。

 

これは簡単な場合でして、パスティリア(石膏盛上げ装飾)や

マイクロ点々装飾(細かい刻印打ち)、アンティーク風加工をしたり

作業時間は増していきます。

たいていの場合、2個同時進行します。

3個は多すぎに感じる・・・。

 

▲左の瓶、大きいのがボローニャ石膏液、小さいのがニカワ

 

そんな訳でして、ひとつ作るのに

どのくらいの時間がかかるか?とのご質問の答え

それは・・・1か月以上、場合によっては3か月、とか・・・。

流れ作業で心のこもらない制作にならないように

という期間でございます。・・・長いですよね。

 

できるだけお待たせしないように、励んでおります。