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誰が誰のために 4月25日

 

先日お話しましたアンティーク市「骨董グランデ」で

何に出会ったか、ご紹介させてください。

「いや別に、どこで何に出会おうがどうでも良い」ですって?

まぁまぁ、そうおっしゃらずにお付き合いください・・・。

 

わたしが骨董市で鼻息を荒くする物は

もうご想像通りなのですけれど、額縁です。

ヨーロッパの小物を扱うお店の最奥のガラスケース

その中の一番後ろにあったのがこの額縁なのです。

 

 

サイズは縦16センチ、横が10.5センチと小さいのに

それはそれは繊細な彫刻が施されています。

 

 

上部にバラと蔦の葉

 

 

下部にはグリフィンです。

バラの花ひとつが1センチに満たない。

グリフィンの顔は小指の先ほど。

楕円の窓も細い枠もすべて彫り出してあります。

 

▲裏面

 

なんというかもう、超絶技巧すぎてため息も出ないと言うか

まさに「息をのむ」。

フランスの1850~70年頃のものだとか・・・

それが本当かどうか、わたしには分かりませんけれど

はっきり言ってそんなことはどうでも良いと言うか(良くも無いけれど)

こんな額縁をカリコリと作った人がいて、

それが200年近く大切にされてきた

(残念ながら葉が一枚だけ欠けている)と言うことなのであります。

 

どんな人が作ったのかな、神経質そうな初老男性かな

でもこの細かさは天才的な新進気鋭の若者彫刻師かな。

どんな人が持っていたのかな、やっぱりブルジョワの奥様かな

それとも若くして亡くなった女性の肖像画(写真かも)を

入れるために家族が注文したのかな。

・・・とか!

相変わらず激しく妄想を繰り広げています。

それもまた楽しい。

 

 

骨董グランデの会場奥深くで、わたしは

胸ぐらをつかまれた勢いで引き寄せられたこの額縁です。

今までの人生で、何度かこうした「呼ばれた」品

(古本やら道具やら)がありますが、

逃せばもう二度と会うことも無い。

もう運命、一種の諦めを持って呆然と立ち止まってしまう。

 

だけど、そうです、この日のお財布はほぼ空っぽ。

目を泳がせているわたしの隣で家族が

「そんなに欲しいのぉぉ・・・?

じゃあ誕生日プレゼントに買ってあげるぅ。

ハッピーバースデーフフフ・・・」と買ってくれてたのでした。

ちなみにわたしの誕生日は8月です。

先取も甚だしいですけれど、とても嬉しい。

 

さて・・・この額縁を作った職人に思いを馳せて

わたしもせっせと制作に励みます!

 

 

骨董グランデ 4月22日

 

わたしの出不精もすっかり定着してしまって

同じく出不精の友人と「リハビリが必要なレベル」

と言い合う最近なのですが

どうにかこうにか出かけてきました。

行先は東京ビッグサイトで開催されました

アンティーク市「骨董グランデ」です。

今年で第五回だとか。

 

 

初日(金曜日)のお昼に入場しましたが

まだお客様はまばらで空いていて歩きやすい。

ここぞとばかりに練り歩きます。

目に入るのは小さい物ばかり。・・・性でございます。

 

▲グリ模様彫刻の御香合。素敵。

 

▲こちらは七宝でしょうか。手のひらサイズ。

 

▲細かくてもラインがキチッとしていてぶれがない。素晴らしい仕事。

 

 

午後になって少しずつ人も増えました。

そして外国語もずいぶんと聞こえてきます。

中国や韓国(朝鮮)の骨董を扱うお店

イギリスのステッキ専門店など

それぞれそのお国の方が店主、

そしてお客様も外国の方・・・インターナショナル。

 

▲オールド・バカラのデキャンタ、キラキラと美しくて見惚れます。

 

▲おもちゃのお店も。

 

トッポ・ジージョを見つけてしまった―!かわいい。

言わずと知れたイタリア出身のキャラクターです。

ウフフ♡(←トッポ・ジージョ風に)

 

この日の骨董グランデは急遽行くことにしましたので

まぁ何も買わないかな・・・買わないことにしよう!と

お財布もほぼ空っぽで出かけたのです。

でも、そういう時を狙ったかのように

出会うものなのであります。

 

何に出会ったか、次回ご披露いたします!

引っ張り失礼致します・・・!

 

 

星の指輪入れ 4月18日

 

星の指輪入れが完成しました。

成城学園前にあるアンティークショップ

「attic」さんからのご注文で制作しました。

 

 

箱義桐箱店製のアクリルガラス入り指輪ケースに

いつものように古典技法で水箔(14K金箔)を貼り磨き

星の模様を点打ちで散らしています。

 

▲加工前の指輪ケース、桐の木地です。

 

18の小部屋があって、それぞれに

黒い別珍のクッションが入っています。

難点はアクリルガラスが取り外せないこと。

カバーはしましたが石膏の作業時には不便・・・。

ううむ、でも加工を前提に作られていませんから

仕方がありませんのです。

 

 

指輪はもちろんですが、こぶりのピアスも入れられます。

 

 

お店で使っていただく箱ですので、頻繁に開け閉めすること

不特定多数の方が触ることを考えて、

箔の表面をすこし厚めにコートしました。

その効果なのか、表面がいつもよりガラス質に見えて

それも良い雰囲気に仕上がったような。

 

 

成城学園のお近くにお越しの際には

ぜひ atticさんへお立ち寄りください。

星の指輪入れもお越しをお待ちしております。

 

attic

 

引き込まれて救われて 4月15日

 

なぜだか分からないけれど

どうにもこうにも嫌な考えのループに嵌ってしまう事があります。

そして自己嫌悪したりして。

 

昨今はウェブ上にそんな時の解決法がたくさん紹介されていて

瞑想する、運動する、自分を俯瞰的に見る、

そんな自分も受け入れる等々、いくつもあります。

 

だけど、ううむ、そうじゃないんだよ・・・

と、ひねくれ者のわたしは思う訳です。

運動したって一時しのぎでしょ(大体運動嫌いである。)

そんな自己嫌悪するような自分を受け入れましょうって、

そうしたら、そんな思考回路で止まってしまうじゃないか

・・・ブツブツ。

 

▲小箱ばっかり作っている場合じゃない。

小箱に逃げている。分かっておる。

 

そんなある日、偶然に北インドのシタール音楽を聴きました。

シタールはご存じと思いますが、ギターのように

左手で弦を押さえ、右手で爪弾きます。

そしてタブラと呼ばれる太鼓(二つセット)奏者と

2人で演奏するのが多い様子。

このシタール音楽が「ぐるぐる思考」からの脱出に

大変効果があることが分かりました。

・・・わたしだけかもしれませんが。

 

全く詳しくありませんので勝手な解釈ですが、

伝統的な演奏は短くて30分、おおむね1時間と長い。

そして曲の出だしはシタールのみでジャラララ~~~ン・・・と

地底から響くようにゆっくり始まります。

曲の半分頃にタブラがこれまたゆっくり加わって

そこから徐々にスピードが上がります。

 

タブラの「タンタカタンタカ」(右手)と「ムーンムーン」(左手)が

どんどん早くになって、シタールのメロディーも競うように早く複雑になって

聴衆の心拍数もどんどん上がる。

そして全員の興奮が最高潮に達したときにジャンッ!と終わるのです。

 

この、歌詞もなく(意味付けが無く)

聞く機会が少ない音楽なのもポイントに思われます。

少しずつ興奮の渦に引き込まれる時に

徐々にわたしも変な思考から引きずり出され

何も考えずにハラハラドキドキが高まって

ダンッと曲が終わるときにはまるで「サウナから出て

水風呂に浸かって整った」ようなサッパリ爽快な気分になるのです。

 

驚くほど効果があります。・・・わたしだけかもしれませんが。

長々と説明しても、この不思議な解放感は説明できません。

YouTubeやSpotifyでも「シタール」と検索すると

沢山聞くことが出来ます。

わたしは最近のオシャレなアレンジではなくて

いわゆる巨匠の演奏を選んでいます。(モノクロ写真の演奏)

シタールの音は少し琵琶や津軽三味線のようですし

タブラも鼓のように聞こえる時があります。

 

もし気になる方がいらっしゃったら

もし聞いてみようかな、と思われたら

Ust Vilayat Khan aged 16 – rare video (youtube.com)

(↑3分ショートビデオ、英語の解説あり)

Shahid Parvez Raga Darbari (youtube.com)

Vilayat Khan – Raag Darbari (1968) (youtube.com)

上記YouTubeの演奏などぜひ。

長いですけれど、きっと引き込まれること請け合いです。

 

 

イニシャルいろいろ 4月11日

 

ご注文で制作したイニシャル小箱ふたつ

ご紹介させてください。

 

 

サイズはいちばん小さな豆小箱

指輪がひとつ斜めに入る程度のものです。

左は純金箔にKとMのモノグラム

右は水箔(14金)にMのイニシャルです。

装飾方法はそれぞれ違うのですが

 

 

純金の方はベースに蔦模様を線彫りしKとMを黒でペイント。

すこしの磨り出しをしてアンティーク調に仕上げました。

中は紺色の別珍張り。シックな雰囲気です。

 

 

水箔のMは、ベースの蔦模様は金と同様ですが

Mと蓋側面の点々をパスティリアで盛上げ装飾しました。

箔も磨き上げたままですので華やかでキラキラと輝きます。

中はすべて黒、コントラストできりりと引き締まります。

 

 

どちらもお客様と仕上げのイメージ、中の色などご相談をして作ります。

同じサイズのイニシャル小箱、と一口に言っても

箔の色、文字のフォント、装飾技法によって

また開けた時の中の色によってイメージは大きく変わります。

そんなところも楽しくなります。

 

 

記念におひとつ、いかがでしょうか。

 

 

猫とお肉とアフリカと 4月08日

 

2024年2月のフィレンツェ滞在記

相変わらず忘れたころに再登場です。

フィレンツェ滞在時には公私ともに(?)

お世話になりっぱなしの友人Lですが

今回の滞在でもLと奥さんCちゃん

そして猫のムジッチェとチョルニのお宅へお邪魔しました。

猫を愛でながらビステッカをいただくのです。

 

今回、わたしはベジタリアンCちゃん用に

ホウレン草の胡麻和えとポテトサラダを山盛り

そして頂き物のシャンパンとアマローネ

(赤ワイン)がありましたので持っていきました。

アマローネはイタリア北部ヴェネト州名産ワインだそうで

ヴェネト州出身のLは大喜び、そして

レアのステーキにはピッタリ!でございました。

シャンパンもアマローネも自分では選べない

(知識がない上に価格的にも)お酒でしたので、

大切な友人とシェア出来て何よりでした。

 

▲シャンパンと猫・・・至福の時。この子はチョルニ。

お行儀の良い女の子。でもテーブルに乗ってはいけません。

 

▲相棒のムジッチェは人懐っこい男の子、じっとしていません。

テーブルからは降りなさい~。

 

さて、今年もLが準備してくれた

美味しいお肉と記念撮影をしまして、

早速ジャジャッと焼いていただきます。

もちろんLが焼いてくれます。

Cちゃんとわたしは座りっぱなし!

 

▲満面笑顔のLをご紹介できないのが残念

 

 

フィレンツェのTボーンステーキは厚切り

それをレアで頂くのが定番です。

外側はカリッと香ばしく、中はほんのり暖かい。

そして血が滴ることはほとんどありません。

 

▲さらにもう一種

 

ステーキのつづきはイタリアンソーセージ

「サルシッチャ」です。

これは豚肉だと思うのですが、ハーブが効いていて美味しい。

そして半生・・・。

以前から不思議なのですが、イタリアでは

「生ソーセージのパニーノ」がありますし

こうして家やバーベキューでも半生で食べます。

日本では生の豚肉は絶対食べちゃダメ!と言われますが

イタリアと処理に違いがあるのか、未だに謎なまま。

そして謎なまま美味しいので食べてしまう・・・。

 

▲毎回ムジッチェが膝にやってきて、わたしはもうノックアウト。

 

「もうお腹いっぱいだ~!」と叫ぶ頃

ベストなタイミングで猫が膝に座ってくれます。

実は言葉が分かっていて、残り物をつまもうと

膝に乗っただけかもしれません・・・

でも良いのです。幸せなので。

(もちろん彼らには人間のご飯は食べさせません。)

猫の頭のにおいを嗅ぎながら食後のジントニック・・・

なんたる幸せ。

 

▲Cちゃんに抱かれて至福のチョルニ、それを見るCちゃんもうっとり。

 

女の子のチョルニはわたしには抱っこさせてくれません。

それもまた猫らしくて「くぅぅ~♡」となるポイントです。

 

LとCちゃんは2023年夏にアフリカ旅行をして

すっかりアフリカに魅了されたとか。

今年の夏も今度はボツワナに行くのだと張り切っていました。

写真を沢山見せてもらって、地平線や真っ青な空、

荒涼とした砂漠も力強いサバンナ、

そして野生動物の眼差しも美しい宿ももう別世界、

二人の興奮が伝わりました。

「一度は行った方が良いよ!

だまされたと思って行ってごらん!!」と

二人に勧められました。

・・・アフリカかぁ・・・遠い。

感覚的にも距離的にも、わたしにはとても遠い。

イタリアからアフリカって、南下すれば良いんだもんねぇ・・・

時差が無いのですもの。日本からよりずっと近い。

きっと日本人とイタリア人と

アフリカに対する感覚も違うのかもしれない、

実際イタリアの街にはアフリカ系の人たちも沢山いて

イタリア社会に馴染んでいます。

歴史的にも地理的にももっと近しいんだろうなぁ、と

酔った頭で考えていました。

 

アフリカに行く前に、まずは

南極とニューヨークと北インドに行きたい・・・

二日酔いの翌日に思っていました。

 

技術とセンス 4月04日

 

現在フィレンツェに滞在中の友人が

美しい写真を送ってくれました。

EREDI PAPERONE Bottega d’Arte の

ショーウィンドウに並ぶKANESEI小箱です。

 

 

写真のセンスと技術があると、こうも違うのですな…!

彼女の配偶者の方はフォトグラファーなので

やはりそんな所もお二人は通じているのかもしれません。

 

 

あれ、こんなにカッコいい雰囲気に展示されていたっけ?

 

 

おや、こんな美しい陰影が見えていたかな??

 

 

実物より良く見えている!?

 

 

この小箱たちが良いご縁に恵まれますよう。

もしフィレンツェにお越しがありましたらぜひ

EREDI PAPERONE Bottega d’Arte へお立ち寄りください。

 

EREDI PAPERONE Bottega d’Arte

Via del Proconsoli,26r Firenze

10::00~13:00/14:00~19:00

 

 

考えすぎだとしても 4月01日

 

3月30日の土曜日、悲しいニュースに触れました。

彫刻家の船越桂さんが肺がんで亡くなったと。

展覧会に行ったり制作過程等のDVDを観たり

お父様の船越保武さん共に尊敬する方でした。

ご冥福をお祈りいたします。

 

そしてまた、マッシモを思い出したのです。

 

フィレンツェの額縁師匠マッシモは

昨年初秋に体調を崩して呼吸が困難になり

病院で検査を受けたところ、すでに肺がんが

進んでいて手の施しようがない状態だったとのこと。

妻パオラ曰く「とてもアクティブながん」で

骨や腎臓、リンパにどんどん転移してしまって

治療を施す暇もなくあっという間に行ってしまった。

そしてパオラもまた今、呼吸がつらくて

ほぼ24時間酸素吸入をしています。

 

確かに2人ともタバコを吸っていたけれど

(パオラは今も吸い続けている!止めてくれない。)

もしかしてもしかしたら、いや可能性として

額縁製作の職業による影響もあったりして・・・?

 

 

なにせ古典技法額縁では木屑と石膏粉から

逃れることが出来ません。

そして彼らは咥えタバコでマスクなどしなかった。

仕事として朝から晩まで毎日をこの粉の中で

過ごしていたら、と考えてしまう。

船越桂さんもまた、木彫作家の毎日で

粉塵は避けられない生活だったのではないでしょうか。

 

考えすぎかもしれないし、そうではないかもしれない。

石膏粉や木屑よりタバコの方が肺にはずっと悪い事は

百も承知だけれど、ううむ。

 

 

自分の身体を守れるのは自分だけですものね。

面倒くさがっていても後悔先に立たず。

わたしはマスクをもう少し高性能のものにしようと

改めて思います。

 

 

額縁の蔵出し販売 3月28日

 

以前に展覧会用などに作ってそのまま

自宅の片隅で眠っている額縁がいくつもあります。

本当は展覧会時に販売できれば良かったのだけど

そう上手く行くことも無く・・・

長らく冬眠していた額縁たちを

オンラインショップで販売しています。

 

サイズは規格サイズではありませんが

鏡を入れていただくことも可能ですし

もちろん作品の額装として、

またお店の展示や什器として、

色々と使っていただけると思います。

 

▲piatto-francese フランスの古いお皿をイメージしたデザイン。

 

▲金焼 金箔を貼り磨いてから焼いたもの。かなり強い古色です。

 

▲銀焼 こちらも同様に銀箔を貼り磨いて焼いたもの。

 

どの額縁も、手に取れば作った時の記憶がよみがえります。

いちいち感傷にふけっている場合ではないのでございますけれども。

新しい持ち主の方に使っていただければ額縁の使命を全うできるはず。

よろしければどうぞ、KANESEIのオンラインショップをご覧ください。

 

 

KANESEIオンラインショップ

 

 

「そういう時」のために 3月25日

 

先日お話したようにノロウィルスに大打撃を受けた我が一家

おかげ様でそれぞれ快復いたしました。

わたしもどうにかパジャマを脱ぎ捨てて作業部屋に入った日

納期間近の額縁制作を再開したは良いけれど

あわや大失敗!という瞬間がありまして

いやもう、こんな日は急がば回れ、

落ち着いて違うことをした方が良いのです。

 

かと言って気は焦りますし本を読んだりする気分でもない。

何かしていないと落ち着かない。

「そういう時」のために、制作途中の

マイクロ点々打ち小箱がいくつかあります。

 

 

石膏や金箔が乾くのを待つ間の手持無沙汰の時とか

気分を落ち着かせたい時とか、

ひたすら点々打ちをします。

「なにかしている感」が感じられて(実際なにかしているし)

瞑想のような効果もあるようで

気持ちが徐々に落ち着くのでした。

 

今回のノロ騒動の余波で上の写真の小箱装飾は完成しました。

これも怪我の功名といいましょうか。

 

 

うわさ通りのアイツ 3月21日

 

いたって個人的な事ですけれども

先日ノロウィルスに感染しました。

家族のひとりが外食時に感染したらしく

(同席した方々も感染・・・)、

その後に他の家族も感染、そして最後にわたし。

 

話には聞いていましたけれど

このウィルスの強さにはもう、どうにもこうにも。

症状はいわゆる「ノロウィルスに感染した時」そのものでした。

お茶を飲むのも恐ろしい。

身体中がウィルスを追い出そうと

奮闘してくれているのを痛感しつつ寝ているのみ。

 

▲せめて画像は爽やかなフィレンツェの青空

 

いやはや・・・家庭内では気を付けるにも限度があります。

これはもう、コロナ並みにお風呂もトイレも寝室も

もちろん食事も別にしない事には

避けられなかったと思われます。

後悔先に立たず。

 

それにしても、どうにかこうにかシャワーを浴びられるまでに快復して

久しぶりに見た鏡の恐ろしさたるや。

10~20年くらい老けていました。

なんというか・・・日帰りした浦島太郎というか・・・

 

 

これから春なのに!気持ちの良い季節がやってくる!

わたしもここで老け込んでばかりいられませぬ。

モリモリ食べてジャンジャン作って

心身を盛り上げて回復したいと思います。

 

皆様も油断大敵、いつどこで何ウィルスが待ち受けているか・・・

ご用心です!

 

 

中世の本のような 3月18日

 

2023年にペルージャの国立ウンブリア美術館に行った時

誰もいないとても静かな空間で

思う存分に黄金背景テンペラ画を堪能できました。

その時に見た数々の作品に登場する聖人や司教など

聖書を持って佇む様子が沢山あるのでした。

 

その人物が誰であるとか

持っているのが本当に聖書なのかどうか等々はさておき

その本の装飾に見とれました。

大抵描かれているのはは赤とか青とか

ハッキリした色の本に金で模様が入って、

そうして金具で閉じられているのです。

 

それら絵の「金具で閉じられた聖書」のイメージで作りました。

 

 

古い黄金背景テンペラ画にご興味をお持ちの方でしたら

「ああ、よく見るあの感じね」と思われるような

そんなデザインです。

 

 

当時の聖書は羊皮紙に描かれて厚い皮表紙が付いて

とても重くてとても貴重な品だったようです。

重い聖書をきちんと閉じるために

こんな感じの蝶番のついた金具が取り付けてあるのは

写本の展覧会などでも見ることができます。

 

この小箱には「なんちゃって蝶番金具」を着けたくて

石膏下地を磨いた後、パスティリアで金具のベースの形を盛り上げて平らに磨き

さらにその上にもう一度パスティリアで釘風に小さなポチポチを乗せました。

金具で閉じられたように感じていただけるでしょうか。

 

 

クリーム色でちょっと明るく可愛くなっちゃったかしら・・・

で、中はキリリと紺色の別珍を貼り込みました。

 

いかがでしょうか。

 

 

お終いのとき 3月14日

 

わたしの額縁師匠パオラとマッシモについては

何度もお話しているのですが、

もう少しお付き合いください。

 

今回のフィレンツェ滞在で一番に連絡したけれど

なかなか会うことが出来なかったパオラ。

週に1~2度、体調の良い午前中だけ動けるとのことで

滞在後半にようやく会いました。

小柄でとても痩せていて身体が強くないパオラは

昨年秋から体調を崩していて

今は酸素ボンベを携帯しつつ吸入する生活になっていました。

昨年暮に夫のマッシモが亡くなり自分の体調も限界

これが潮時なのよ、と工房を閉じることに決めたと話してくれました。

 

▲「CORNICI」額縁。

シャッターが閉まっている時間がほとんどになった。

 

今はとにかく最後の注文額縁をどうにか仕上げること

(これは無理かも・・・と言うけれど古くからのお客様だから待ってくれるはず)。

その後には大量の材料や道具、荷物を片付けること

見本として店舗に掲げていた額縁を売りきること

そして空にした「元工房」店舗を賃貸に出すこと。

 

店にはまだ額縁が沢山かけてあって、

でもところどころ歯が抜けたように額縁が無くなっている壁には

かつてあった額縁の跡がうっすらと残っている。

あの額縁もこの額縁も、わたしを見習いで

受け入れてくれていた頃からあって、いつも眺めていた額縁でした。

なかにはマッシモを手伝ってわたしも制作に参加した額縁もありました。

 

 

現実問題として、この大量の物の仕分け、

業者を呼んだり売ったり捨てたり、事務手続き、

それらは今のパオラには無理なのでは・・・

かといって、わたしが出来ることはほとんど何も無い。

せいぜい荷物運びゴミ捨て掃除程度の肉体労働で

そんなのは最後の最後。

パオラのひとり娘(裁判所勤務)や友人知人がすることであって

わたしが出る幕では無いのだと頭では理解しつつも

でもこの寂しさ心細さはとても辛い。

次にフィレンツェに行った時、それが今年か来年か数年先か

その時にこの工房はもう姿を変えているのだろうと覚悟をしました。

 

店の見本額縁はすでに予約済みのものも沢山あったので

わたしはひとつだけ小さな額縁を買うことにしました。

パオラと、今は亡きマッシモの合作、ふたりの工房の残照。

 

 

懐かしの天使 3月11日

 

イタリア滞在から帰国して

オンラインショップも再開するのを機会に

新しい商品も載せることにいたしました。

新作ばかりではなくて旧作もいろいろと。

 

 

純金箔と純銀箔の双子額縁、かれこれ・・・

大変大昔に作ったものです。

その頃はエージェント事務所に所属しておりまして

マネージメントを担当してくださっていた方の

アイディアでアンティークの布を入れました。

な、なつかしい・・・

 

 

天使の模様が織り込んであるシルクを

クッションになるようにして(キルト芯を入れて)

ふかふかにしてあります。

帰宅後に外したアクセサリーを乗せたり

お店の展示にも使って頂けたら・・・と思っています。

 

 

このふたつの額縁を作っていた頃

なんだか無駄に色々と悩んで考えていたような記憶が蘇っています。

この頃に比べれば今は自分との付き合いが

ずいぶんと楽になりました。ハハハ。

 

オンラインショップでどうぞご覧くださいませ。

KANESEIショップ

 

 

ところ変わればお好みも変わる 3月07日

 

さて、今回のイタリア・フィレンツェ滞在の

目的1はマッシモのお墓参りでしたが、

もうひとつの目的は小箱販売継続に向けての諸々でした。

 

昨年2月の滞在時に友人Lに手伝ってもらって

ようやく辿り着いた「KANESEI小箱販売店代理店」の

EREDI PAPERONE へ、納品小箱を担いで行って参りました。

 

フィレンツェ特産工芸品のマーブル紙や革を使った

高級文具店の奥の一角にあるガラスケース、

そこに我が娘たち(小箱)が並んでおりました。

Lが写真に撮って送ってくれていましたが

自分の目で見ると喜びもひとしおでした。

▲お送りしたショップカードも置いてくださっている

 

鍵付きのガラスケースでライトアップされていて

安心安全にキラキラ輝いています。

なんだか授業参観に来た母の気分と言いましょうか。

 

今回は新しく10個の小箱をお預けしました。

20個持って行ったうち、売れ筋10個を

お店の奥様スザンナさんに選んでいただきました。

 

実は箔を使ったものが売れているような気がしていて

今回半分は箔小箱を持って行ったのですが

意外にもスザンナさんが選んだのは色小箱、

それも明るめの色の小箱でした。

そういえばショーウィンドウに残っているのは箔小箱が多い、

そしてホワイトゴールド、錫箔はず~~っと前から残っている。

日本ではというと箔の小箱がメインですし

色小箱もシックな色が人気だったりして。

ところ変わればお好みも変わる。

 

そうかそうか、ふむふむ。

このお店で買って下さるお客様の傾向が半年経って

少しずつ見えてきました。

 

▲素敵なウィンドウを見て、通りがかりで立ち寄って下さる方も。

2月なのに気温20度近くあった日、半そで姿とダウンが共存・・・

 

今までメールでのやり取りばかりでしたが

今回スザンナさんと3日に一度は顔を合わせて

送金についてや税金について手続き諸々やら

打ち合わせをすることが出来ました。やはり手っ取り早い。

そして実際のお店やお客様の様子を見ることが出来て

本当に良かったと思っています。

 

スザンナさんとお互いに人となりも分かって来た安心感も大きい。

(笑顔が素敵でとても優しくて機嫌の良し悪しを表に出さない、

手間も惜しまないキッチリしたスザンナさんでした。

語弊があるけれどイタリア人とは思えない・・・

日本人同士のような感覚で接することが出来ました。)

これからまだまだ長いお付き合いが出来るよう期待しつつ

あわよくば将来的に小さい額縁(写真やハガキサイズ)も

置いてもらえたら良いな、ウヒヒ・・・

などと小さな野望も抱いております。

 

今はとにもかくにも、良い小箱を作ってお届けしたいと思います。

EREDI PAPERONE Bottega d’Arte

Via del Proconsoli,26r Firenze

10::00~13:00/14:00~19:00

 

 

ありがとうはどこからでも 3月04日

 

フィレンツェ滞在から帰国いたしました。

1か月弱の期間、とてもとても充実した盛沢山の時間を過ごしました。

 

出発前のブログ(1月22日)で、わたしの額縁師匠マッシモが

昨年12月に亡くなったとお話しました。

今回の滞在でマッシモの墓前にご挨拶することを

大きな目標にしていたのでしたが、

結局叶えることは出来ませんでした。

 

 

マッシモの妻でわたしのもう一人の師匠である

パオラは現在体調を崩していて、

週に1~2度ほんの少し体調の良い午前中だけ動ける様子です。

すでに工房はほとんど使われておらず

見本として壁に掛けていた沢山の額縁も

「もう作れないから必要ない」とどんどん販売している状態。

そんなパオラに「マッシモのお墓に連れて行ってほしい」とは言えず

墓地の場所もフィレンツェ郊外でバスで行けるものの

「ものすごく広い墓地だから、あなた一人で行っても

お墓の場所が分からないでしょ・・・」と諭されてしまったのでした。

つまり「そんなに必死になって行く必要はないでしょ、

もう亡くなってしまったのだから」と言うことなのかな、と思いました。

 

日本のお墓参りの感覚とイタリアのそれと

大きな違いはないように感じます。そして

「お墓に大切な人の存在を感じるか感じないか」が

人それぞれなのも同じ。

最近のイタリアでは火葬が多く、

散骨(散灰)も増えているのだとか。

 

 

フィレンツェには驚くほど沢山の教会があって

そのどれもに、大切になさっている方々の存在を感じます。

お花、蝋燭の灯、清められた床などなど・・・。

マッシモに「ありがとう」も「さようなら」も言えなかったけれど

手入れの行き届いた教会に立ち寄るたびに

なんとなくマッシモを思っていたので、

きっと伝わっていたであろう

伝わっていてほしいと思っています。

 

 

錬金術師の名前 2月29日

 

ホカホカマリア様?」でお話したイタリア語の単語

「Bagnomaria」(湯煎)のつづき。

気になって追及しましたが、ご興味あればぜひ。

 

湯煎は古典技法絵画だけではなく

いちばん使われるのはお料理の分野でしょうか。

チョコレートを溶かしたり卵を少しずつ加熱したり。

イタリアに料理修行に来られる方も

沢山いらっしゃいますので、きっとこの

「Bagnomaria」に「はてな❔」と思われた方は

沢山いらっしゃるのではないかと期待しております。

 

さて、わたしの手持ちの伊伊辞書をまず引いてみます。

 

▲イタリア語によるイタリア語の辞書。Novitaとあるが古い・・・

 

 

「容器に入れたものを熱湯に浸す。加熱する。」ですって。

いや、そりゃ分かっておるのじゃよ・・・!

語源が載っているかと思ったのだけど。

 

次なる手段、イタリア人に聞く。

そうしましたところ、こんなスクショが送られてきて

「わたしも知らなかった」ですって。

まぁこんなこといちいち気にするのは

我ながら煩いと思いますからね、ハハハ。

 

 

「この言葉の元はおそらく、モーセの姉で錬金術師の

Myriam (ミリアム;ヘブライ語のマリア)に由来しており、

この調理法を初めて使ったのがミリアムとされている。

”マリアのお風呂”と呼ばれる調理法。」

つまるところ、モーセの姉が

「わたしが開発したこの方法、わたしの名前を付けるべし!」

だったのかも?という伝説・・・へぇえええええええ!

Maria は聖母マリア様ではなくて、もっと古い

旧約聖書の時代のMaria (Myriam) だったのでした。

 

これにて一件落着!ついでに etimologia (語源、語源学)

という単語も知ることが出来て一石二鳥。

モーセの姉がミリアムであり、ラテン語でマリアになる。

これも初めて知ることが出来ました。

一石二鳥、いや四鳥で友人には感謝でございます。

 

モーセの姉ミリアム。

弟のモーセが十戒の石板を掲げている横で焚火に大鍋をかけて

何やら怪しい薬草や鉱物を湯煎でグツグツ・・・

「フフフ!これぞ新しい技法、わたしが発明したのよ!」

と呟いていたりして。

変な風景を想像しています。

 

 

 

ホカホカマリア様? 2月26日

 

イタリア語を少しご存じで

古典技法の経験がある方ならば

あるいはイタリア料理を勉強なさった方なら

きっとご存じのイタリア語単語

それは「bagnomaria」、湯煎という意味です。

 

古典技法で欠かせない石膏地はニカワ液に溶いてありますから

必ず湯煎で温めて液状にして(冷えるとゼリー状になる)使います。

 

▲右上のガラス瓶に石膏液が入っています。

普段は冷蔵庫に入れておいて、使う時に湯煎で温めています。

下に敷いた紙がびしょ濡れなのは、湯煎して瓶を拭かなかったから・・・。

 

キャンバスや板絵の下地、額縁にもKANESEI小箱にも

一番ベーシックな石膏下地、つまりニカワで溶いた石膏を

湯煎して塗ってあります。

 

▲パスティリア(石膏盛上げ装飾)も湯煎した石膏液で垂らし描き。

 

で、このイタリア語の湯煎という単語「bagomaria」

バーニョマリーアと発音しますが、バーニョはお風呂またはトイレ

マリアとは言わずと知れた聖母マリア様です。たぶん。

この単語を見るたびに湯船につかってホカホカしたマリア様とか

トイレに座ったマリア様とか(大変に失礼ながら!)

イラスト的な画像が頭に浮かんでしまう。

 

なぜ湯煎が bagnomaria という言葉になったのか

気になりだすと止まらない。

 

もしかしたらお風呂もトイレもマリア様も

全く関係ないところから来た単語だったり?

それもまた興味津々であります!

 

今度イタリア人に聞いてみよう・・・

 

 

忘れていない 2月22日

 

すっかり小箱制作ばっかりね

と思われているかもしれない・・・ですが

こちら額縁も忘れておりません。

 

 

隙間時間にガサゴソと制作。

1700年代イタリアの額縁風のデザインにしました。

外側には果物と葉。この果物のリース模様は

ぜひ一度作ってみたかったデザインなのです。

中央にはリボン巻き巻き、端先は・・・

これ何と呼ぶデザインでしょう

変形「lumb’s tongue」のような。

 

次はボローニャ石膏を塗り磨き、

ボーロを塗り金箔を貼ってメノウで磨いて、

ちょいと古色を付けたら完成です。

なぁに、あっという間ですよワハハ・・・ハ・・・

 

 

星ちがい 2月19日

 

シンプルな小箱・・・いや

KANESEI小箱としては、シンプルな小箱が出来ました。

 

 

こちらも星のような模様を入れてありますが

いつもの青ベースに金の星ではなくて

パスティリアで小さな点々をで集めて盛上げて

その周囲をマイクロ点々を打ってキラキラとさせてみました。

 

 

蓋の縁はひと回りぐるりとベルト状に一段高くして

格子のようなウロコのような模様が細かく入っています。

この写真だと暗くて見えませんが・・・

 

ちなみに箱の下の本は2023年フィレンツェ滞在時に

書店で立ち読みして、時代物だけどこれなら読めそう・・・

と買った小説です。1年経って結局まだ読んでいない!

表紙がギルランダイオの「ジョヴァンナ・トルナブオーニの肖像」

なのは偶然です。いや、無意識に惹かれたかもしれません。

 

 

ジョヴァンナのような貴族の娘さんが

この小箱をこっそり持っていたら

どんな風に使ってくれたかな、なんて。

 

いつか政略結婚することは貴族の家に生まれた運命

だけど、密かな恋人もいて、その人から贈られたという

2人のイニシャルが刻まれた指輪が入れられていたりしたら・・・?

 

なんちゃって。少女漫画の世界まっしぐら。

 

いつもと一味違う金の星、いかがでしょうか。

 

 

星いろいろ 2月15日

 

ウルトラマリンの青をベースに金の星を並べるデザインは、

それこそジォットのフレスコ画の頃から

(それ以前からかも)ある不朽のデザインでして、

わたしも小箱になんども繰り返し入れています。

 

今回は平たい正方形の箱に紋章風に入れてみました。

 

 

金の部分はすべて純金。

いつもの純金箔水押と、星模様と細い線模様は純金泥です。

 

 

この写真では分かりにくいのですけれど

やはり金泥で描くと絵の具の「金色」とは全く違うのです。

輝きが奥深く繊細といいましょうか。

描いていて楽しいのはもちろん金泥です。

 

 

中の布はグレーを選びました。

今あらためて見ると地味ですね。

 

 

斜光でみると筆跡がけっこうクッキリ見えます。

これはお好みですし程度もありますけれど

わたしは少々筆跡が残っているところに

ワックスで古色を付けた表情が好きです。

 

単調にならず、力強さや人肌が感じられる。ような。

 

いかがでしょうか。

 

 

信じるべきは手 2月12日

 

額縁の修理をしています。

 

作業部屋では天井の蛍光灯の明かりに加えて

手元のライトも使っています。

斜光ですと凹凸や傷がより見分けやすくなります。

欠けてしまった部分を再形成した時など

特に斜光でいろいろな角度から見る必要があるのです。

 

 

でも最終的な良し悪しを判断するのは

目視ではなくて触覚です。

目は疲れた夕方や気分(恥ずかしながら。)で

「まぁ良いんじゃないかな」と判断してしまうことがあるけれど

指先の感覚はぶれません。嘘が付けないというか。

 

ここで目の判断に流されてしまうか

もうひと我慢して手の判断に従うか

ここで完成度が決まるのです。

もうそれは残酷なほどに完成度が違うのです。

 

この壁を超える、つまり手の判断を受け入れるのには

結構しんどい時もあります。人間ですもの。

そんな時は手の判断を受け入れてから

つづきは翌朝に繰り越します。

そうすると気持ち新たに向き合うことが出来たりして。

 

今できることは先延ばしにするな

なんて言いますけれど、それはそれ

急がば回れとも言いますしね。

臨機応変に。そして着実に。

それを目指して精進しております・・・

 

 

どちらがお好み? 2月08日

 

以前に「『小箱の同じデザインは二度と作らない』というのはやめた」

つまり同じデザインを再度作ることを宣言(大げさ)しました。

今回の小箱も以前に作った模様を技法違いで作ったものです。

 

 

上の写真が新作。

石膏地に模様の輪郭を線彫りして箔を貼り磨き

模様の内側を点々打ちしました。

今回の点々はマイクロサイズではないので

よりクラシカルというかルネッサンス風味に

なったような気がしています。

 

ちなみに以前作った時はこの模様を

パスティリア(石膏盛上げ装飾)で入れました。

 

 

同じサイズの箱、同じ赤色ボーロに純金箔で

磨り出しのアンティーク仕上げですが

模様の凹凸の差で印象も違うものです。

 

 

パスティリアの方が華やかな印象。

 

 

点々打ち装飾は比較的スッキリ。

どちらがお好みですか?

 

わたしはですねぇ、わたしは・・・

その時の気分で変わります!

そんなもんです、ハハハ。

 

 

思い入れの有無と距離 2月05日

 

先日BGM代わりにテレビをつけていましたら

ぬいぐるみ作家の方のインタビューでした。

ひとつずつ違う手縫いのぬいぐるみは

個展でも即完売で、注文も数年待ちだとか。

 

その方のぬいぐるみ購入者は女性や子どもだけでなく

大人の男性のファンもいるそうで、

家に迎えたら家族のようにペットのように

大切にする方が多いそうです。

 

インタビュアーがその方に「自分で作ったぬいぐるみを

手放す(売る)のは辛くないか、思い入れはあるのか?」と聞いたところ

きっぱりと「思い入れはしないようにしています。」

と答えていらしたのが、とても印象に残っています。

 

 

わたしは小箱や額縁をまるで

自分の分身のような娘のような気持になって

それこそ思い入れ盛沢山でいるのですが、

そうではない作家は一体どんな心境で制作しているのだろう?

 

「あえて自分とぬにぐるみに一定の距離を取るようにしています。

名前も付けませんし、モノとして扱う。」

というようなことを仰っていました。

特にぬいぐるみなど顔があって気持ちを込めやすいものを作っていると

距離を保つのは自分のためにも必要かもしれませんね。

 

そしてぬいぐるみに名前を付けたり気持ちを込めるのは

購入してくださる方の特権であって、

その「余白」は作者が入っていく場所では無いのかも。

思い入れモリモリの品は、人によっては重くかんじるでしょうし。

 

 

「心を込めて作られた品」は、その品物への

愛情が豊かでリスペクトもあって、という感じですが

「思い入れのある品」って、執着とか

しぶしぶ手放すような暑苦しさも感じられる・・・

品物を作って売るからには「心を込めて」が

お客様も自分も気持ちが良いのだろうなぁ。

 

小箱・額縁とぬいぐるみ・・・

完成する「もの」は違うけれど、制作する気持ちや

「自作のもの」に対する葛藤は共通なものを感じました。

 

そうか、なるほど。

手放す前提の品とは心の距離を保つ。

偶然だったけれど、貴重なお話を聞くことが出来ました。

 

 

時間は不明だけど 2月01日

 

小箱についてお話するとき

「ひとつ作るのにどのくらい時間がかかるのですか」

というご質問は度々お受けします。

もちろんデザインやサイズにも寄るのですが

実は「ひとつだけ集中して作る」と言うことが無いので

ひとつ作る必要時間はわたしにも不明だったりして・・・。

 

下地作りはいくつかの小箱をまとめて作業します。

 

▲今回の下地作りは22個

 

ご注文の品があればまずそれを優先して、あとは

「なんとなくデザインのイメージが出来つつある」用の箱を選んでおきます。

そして下ニカワとボローニャ石膏塗りまで終えて

丸一日乾燥させて待機。

 

いつまで待機するかは、その箱の運命であります。

すぐにご指名がかかることもあれば

いつまでも待機しているサイズの小箱もあったりして。

 

デザインはず~~っと頭の中でこねくり回して

ようやく表層に上がって来たものを掬い上げて描き起こす感じです。

デザインが決まれば、ようやく石膏磨き、デザイン下描き

箔や彩色、乾くのを待って箔のメノウ磨き

仕上げ塗装、内側の布貼りで完成を迎えます。

 

これは簡単な場合でして、パスティリア(石膏盛上げ装飾)や

マイクロ点々装飾(細かい刻印打ち)、アンティーク風加工をしたり

作業時間は増していきます。

たいていの場合、2個同時進行します。

3個は多すぎに感じる・・・。

 

▲左の瓶、大きいのがボローニャ石膏液、小さいのがニカワ

 

そんな訳でして、ひとつ作るのに

どのくらいの時間がかかるか?とのご質問の答え

それは・・・1か月以上、場合によっては3か月、とか・・・。

流れ作業で心のこもらない制作にならないように

という期間でございます。・・・長いですよね。

 

できるだけお待たせしないように、励んでおります。

 

四角以外も 1月29日

 

最近ようやく完成した小箱は、外側を削った変形型です。

いつもの通り箱義桐箱店製の美しい桐小箱を

ガリガリとヤスリで削りました。

 

▲まだ削り途中。

 

箱木の厚さや強度を考慮して

でもギリギリ削れるところまで攻めてみました。

 

 

この箱は石膏下地を磨き終えて、あとは装飾!という段階で

ず~~~っと放置、いえ「お昼寝」させていました。

なかなか気に入るデザインが思い浮かばない。

本当は昨年秋の小箱展に出したかったのですが間に合いませんでした。

 

適当に落書きのようにデザインを考えていて

ある日ポカッと浮かんだ模様を入れてみたら

あら、悪くない(当社比)んじゃないかい?

 

 

中は王道クラシックに木地部分は茶色に着色

濃い緑の別珍を選びました。

磨り出しはせず、少しだけワックスを付けて

アンティーク調にして、ふむ、いかがでしょうか。

 

なにせ小さな箱ですが、制作時間は結構かかっていたりして。

 

 

今度はもう一回り小さく、または大きく

それとも水箔(金と銀半々の箔、ほとんど銀色)でも良いかも?

いろいろバリエーションを作ってみようと思います。

 

 

厄は落ちたか拾ったか 1月25日

 

昨年暮の大晦日間近の日

とつぜんポカッと時間が出来たので

ガサゴソと小箱制作をしていました。

純金箔を貼ってさて、メノウ棒で磨きましょう

・・・と思った時、手から滑り落ちて折れてしまったのでした。

 

 

細くてすこしカーブしているので

落とせば折れやすい形ではあるのです。

だけど、これと同じメノウ棒を折るのは2回目。

1本目は留学時に買って、数年後に落として折った。

今回のは2011年にようやくフィレンツェに行って買って、また折った・・・。

何ということでしょう。

古典技法の道具は日本では手に入り辛い、そして高価なのです、トホホ。

 

きっとこれは2023年の厄落としである!

 

そう勝手に思い込みまして。

だけど現実的に、このメノウ棒が無いのは大変に不便です。

金箔を磨くにもタイミングを逃すと

美しく輝きませんので「まさに今必要」なのです。

 

手元にあったゼリー状の瞬間接着剤で張り付けてみました。

このメノウ棒という箔を磨く道具、結構力や体重をかけて磨くようで

一代目は接着してもダメだった記憶があり、今回もダメ元でした。

 

そうしましたら、しっかり接着出来て早速使うことが出来ました。

折れ方が良かったのか、接着剤の進化か。

とにかく作業も出来て二代目復活、一安心したのでございます。

 

その夜にお風呂でふと思ったこと。

壊れたのが厄落としだったら、直したら厄は戻ったのか??

折角落としたのにまた拾っちゃったんだったら

ものすごく嫌だな・・・なんて。

 

でもまぁ、都合よく考えることにします。

厄は落ちた。直したメノウ棒はもう新たなものである!

rinascimento これぞ再生、ルネッサンスでありますよ!

・・・そう思うが吉、でございます。

 

 

その時に言うべきこと 1月22日

 

1月24日の水曜日から、フィレンツェに行って参ります。

 

いつもは帰国後にご報告でしたが

今回は先にお知らせしてみることにしました。

とは言え、イタリア滞在中もブログは予約投稿いたしますので

変わらずご覧いただけますと嬉しいです。

イタリア滞在記はまた帰国後に。(2023年滞在記も中途半端ですが。)

 

大学卒業後すぐに留学したフィレンツェで

一番お世話になったのが額縁工房corniceria del’agnolo の

マッシモ&パオラ夫妻でした。

修行先探しに難航したなか、受け入れてくれたのはマッシモでした。

2年間毎日毎日、半日を彼らの工房で修行させていただき

親知らずを抜くときは工房のお客様の歯医者さんを紹介してもらい

(おかげ様で緊急対応していただけた)

頭痛の時の鎮痛剤選びから食事のこと

(激安ワインを飲むくらいならビールを飲みなさい、とか!)の心配、

たまに家に招待してもらって

暖炉の炭火焼きステーキをご馳走になったり・・・

まだまだ精神的に子供だったわたしにとって

本当に「イタリアの両親」でした。

 

その後、彼ら夫婦にも様々なことがあって

数年前からマッシモは額縁の仕事から離れてしまい

わたしがフィレンツェに行った時も挨拶と少しのお喋りだけ

という状況だったのでした。

 

パオラから「残念ながらマッシモが数日前に亡くなった」

と連絡があったのは昨年12月でした。

 

 

2月に会った時 Come sta? (お元気ですか?変わりない?)と聞いたら

Si, cosi cosi… (うん、まぁぼちぼちね。)との返事でした。

「ちょっと痩せたな」と思ったものの、

その時は慌ただしい挨拶で終わりました。

それが最後になるなんて、もちろん思いもせず。

 

この人に一体どれだけお世話になって

支えられて、助けてもらっただろう。

その感謝はきちんと伝えただろうか。

せめてマッシモの墓前でご挨拶だけはしたいのです。

 

後悔先に立たず、人生はいつ何があるか分からない、

一日一日を大切に、一期一会、

そんなことは頭では知っていたけれど。

 

会いたい人には会っておかないといけない。

せめて感謝は伝えておかないと、と今更思っています。

 

 

その扱いの違いを比べる 1月18日

 

2024年、辰年です。

年男、年女の皆様おめでとうございます。

 

毎年の年始のご挨拶に干支の動物が描かれた

中世~ルネッサンス時期の絵を探して

自作の額縁と組み合わせたりなんかして

(図々しいけれどお許しを!ハハハ・・・)いるのですが、

今年の辰は困りました。

 

辰は龍、日本ではとても演技が良くて神様にもなっています。

だけど、西洋での龍(ドラゴン)、どうも悪者なのです。

毒の息を吐くとか、炎を吐いて焼き尽くすとか、確かに邪悪。

 

▲ウッチェッロ作「聖ゲオルギウスと竜」 1470年頃

 

悪者退治で槍で突かれる竜・・・これは年賀状には使えません。

鳥のような足と爪、蛇のような尻尾にコウモリ風の翼

目を突かれて血を吐く、ひどい姿で描かれています。

 

▲「アンティキオの聖マルガリタ」

 

上の絵なんて、日本の竜とはずいぶんと印象が違います。

笑っちゃうような姿。

ちなみにこの聖マルガリタはドラゴンに食べられちゃったけれど

手に持っていた十字架が竜の胃袋を傷つけたので

無事に生還できた、というお話。

そんな訳で聖マルガリタのガウンの残り布を吐出し中・・・?

 

方や中国~日本での龍は威厳があって近寄りがたく

この世ならぬ姿で天を駆け巡っています。

地上にいる姿って見たことが無いような?

 

▲海北友松「雲竜図」

 

日本の龍も、そうは言っても

ユーモラスな表情をしている絵が結構ありますね。

上の龍も鼻やら目つきに人間味があったりして。

頭の形も剝げたお爺さん(失礼!)みたいだし。

だけど邪悪さは微塵もない。

日本の龍は毒を吐いたり焼き尽くしたりしませんものね。

なにせ水の神様ですからね。

 

ドラゴンも龍も起源としては近いらしく

紀元前に蛇や爬虫類の姿から始まったとか。

蛇と言えばキリスト教では「悪」ですから

土着宗教の想像上の動物だったドラゴンが

キリスト教に追いやられて(表現が難しいですが)

徐々に「悪」のシンボルになって行ったのかしら・・・と思っています。

 

文化と宗教を遠くから眺めて比較するって面白い。

人間っていろんなことを考えてきたものですね。

 

辰年、充実した一年にしたいと思います。

 

俺の家 1月15日

 

俺は白い熊だ。

 

おう、俺の自慢の家を見てくれ。

 

 

ゴールド&ブラック、ゴージャスだろ?

まさに俺にピッタリだ、そう思わないか?

 

中を見せるぜ・・・

 

 

絨毯は黄色だぜ!

 

 

どうよ、俺の硬い尻(!)も痛まないぜ。

 

ちなみに俺の座高は4.5センチだぜ・・・

 

 

どうだい俺の家、気に入ってくれたかい?

 

外側寸法:55×55×25mm

桐小箱にボローニャ石膏下地

赤色ボーロに純金箔水押、メノウ磨き

黒アクリルガッシュで彩色

ワックスによる古色仕上げ